よみタイ

ポリコレな男~正しいことがあるって信じるポジティブってバカのことなんだよの話
8月5日に、鈴木涼美さんの新刊『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図を読まない』が発売されました。 「よみタイ」でも大好評だった連載コラム、「○○○な女 オンナはそれを我慢している」「×××な男 酒と泪とオトコと美学」から厳選された30人の男女の話が1冊に! 令和を生き抜く現代男女の生態を、いまや各メディアで引っ張りだこの涼美さんが独(毒?)自の視点で分析します。 この刊行を記念し、連載コラムの中から著者みずからが「特に思い入れが深い!」と厳選した各篇を、その理由と画像(涼美さん自撮り!)とともに特別掲載。 毎週1篇ずつ、全6回の特別企画……だったのですが、大好評につき追加で2篇の公開が決定! スペースの都合で残念ながら書籍未掲載となったエピソードを一部再編集して、涼美さんのコメントとともにお届けします。 (本特集のバックナンバーはこちら! 1回2回3回4回5回6回

ポリコレな男~正しいことがあるって信じるポジティブってバカのことなんだよの話

@鈴木涼美
世界における「正しさ」の所在を疑っている私は、おっぱい占いでBカップと答えるような精神性をどうにも穿った目で見てしまいます。正しい男は、正しくない男と少なくとも同じだけ不快感があるんですけど、正しいだけに中々ツッコミが思い浮かばないんですよね。

いきなりぶっちぎりで懐かしい話なんですけど、2002年くらいに2ちゃんねるとかでちょっと流行ったフラッシュ動画の「バスト占いのうた」ってわかりますか? 
さっき調べたら宮崎吐夢という音楽家が作ったと思われるんだが、要はワン・リトル・インディアン(ワンリトル、ツーリトル、スリーリトルインディアン♪ってやつね)のメロディにのせて、教会の結婚式コントの「チカイマスカー?」に似たような、わざとらしい発音の外国人が、◯カップ好きの男はどんな奴か、ということをHカップからAカップまで延々と歌う、という動画。
わからない人はさっきYouTubeに転がってたので見ておいてください。

それで、Fカップ好きは自分に素直とか、Aカップ好きは卑屈だとか色々言うのだけど、Bカップ好きのところが秀逸で、「好みとしては中途半端、なくてもいいけどちょっとはあった方が……そんなの微妙すぎ」というコメントは、その発音も含めて非常に耳に残る。
というかこの動画はどうやら巨乳好きな人が作っているようで、全体的にはあんまり大きいサイズを答えるのは夢みがちで、あんまり小さいサイズを答えるのは卑屈、という法則性があるのだが、その考えの是非はさておき、私はここのBカップのコメントを最近よく勝手に口ずさんでいる。
ふと気づくと、正月ホリデーで来ているパリの散歩中、口をついて出るのはどぶろっくの「大きなイチモツをください」か、このBカップのところってな感じで。

バスト占いでBカップと答える男の微妙なメンタリティ

たしかに何カップがいいかと聞かれて、Bと答えるメンタリティはちょっと微妙だ。
モデル体型でスラッとした貧乳が好きならAでいいじゃん。実際に自分の彼女がBカップだとしても、わかりやすい表象としてのAでいい。
小ぶりで綺麗なバストが好きなら古今東西Cカップって相場が決まっているし、大きいのが好きな人はFとか言う。

ではなぜBなのか。

想像すると、このBと答える人はどちらかといえばオッパイのサイズは小さい方が好みなんである。
だけど、Aと答えると、もうデカ乳女は取りつく島がないというか、言語道断、俺は細くてスラッとしたファッションモデルみたいなペッタンコカンカンな女しか受け付けません、と言われているようで、たぶん彼に対して悪しからず想っていたとしても、私には無理だろうな、と諦める。
私だって目の前に座った男がAカップ好きだと告白してきたら、喧嘩売ってんのか、と思うか、私の価値がわからないならその席をどけ、と思う。
Fとか答えられた時の貧乳ズの気持ちもそんな感じだろう。

全員が不正解のバスト占いは男の試金石
全員が不正解のバスト占いは男の試金石

さてそこでBカップときたら、いろんな意味で各方面に気を使っている、ということにはなる。

真ん中あたりって感じがするCとかDより少し小さめよりにしておくことで、言語の上ではディスられやすい貧乳女子による評価は勝手にあがるだろうし、Aとならないことで乳に対する毛嫌いのようなものは感じない。やや弱者よりの味方、でも強者を恨んでいるわけでもない、というところが、なんともバランスがいい。そしてなんともいけ好かない。

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新刊紹介

鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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