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歌舞伎町の飲み屋で謎のオジサンから学んだ「ニッチ」な儲け方の本質とは?【新刊『なぜあの人は好きなことだけやって年収1000万円なのか?』試し読み】

手間なし、元手なし、繋がりだけで食える仕事を作る

「そこに看板のあるビルがあるでしょ?」

 オジサンが指差した先にあるのは、斜向いにあるビルの屋上に有る立て看板です。

「あぁ、あれ、オジサンのものなんですか?」
 
 残念、たんなる不動産オーナー親父の自慢話か……と思ったら、オジサンは首を横に振ります。

「いえいえ。私は一つも不動産を所有してませんよ。不動産で不労所得って安易に考えがちだけど、新宿でも少し離れたら3階以上だとテナントがなかなか入ってくれないし、メンテナンスとか税金考えると、いつ赤字に転落するか心配事が尽きないです」

 でもね……とオジサンはカップ酒を舐めつつ、相変わらず丁寧に話を続けていきます。

「あのような、小さなビルのオーナーは、少しでもリスクは減らしたいものなのですよ。そこに、ビルの屋上に広告出しませんか?って営業をかけたら、間違いなく一度は話を聞いてくれるんですね」

「ああ、なるほど。だから稼いでいるのに、こんなところで飲んでいるんだ」

「おぉ兄さん、よく解ったねぇ」

 一見受け答えになっていない私の反応が、相当嬉しかったようで、オジサンはニヤリと笑いました。

「もともと私は印刷屋で、広告営業の仕事をしてまして。その時の人脈で、ビル広告を出したい広告主さんと、ビル看板を出したいオーナーさんを繋いでいるのですよ。だから、オーナーさんや広告主さんと会って話をまとめるのが週3日くらい。あとは、印刷会社とデザイナーにメールで発注して、出入金を確認したら仕事は終わり。ね、楽ちんでしょ」

 最初は詐欺師、次は単なる自慢話かと疑ってましたが、その正体は、元手ゼロで楽ちんなビジネスを立ち上げた、なかなかやり手のオジサンでした。

 株でも不動産でも投資するには少なくない元手が必要ですし、元本割れするリスクは常にあります。どんなに慎重かつ計画的に行っても、資産運用でFIREできる人より、失敗する人のほうが多いのが現実です。

 ところがこのオジサンの場合、持ち出しはゼロです。元印刷会社の営業という職歴で得た人脈で、物件のデットスペース=屋上にビル広告という付加価値を発生させて、不動産オーナーには広告費を、印刷会社やデザイナーには仕事を発生させて、オジサンは手数料という形で収入を得る仕組みを作ったのです。
 
「大通りに面した大きなビルの看板広告はそれ相応の広告費ですし、そこに広告出せる企業に繋げるのは、それなりの規模の広告代理店になりますよ。でも、よく見ると小さいビルで看板広告出せるところはまだまだ沢山ありますし、そういうところは広告費が安すぎて大手は手を出さない」

「それで広告費が安ければ、看板出したい広告会社も出てくる、ということですね?」

 そうそう。そういうことですと、オジサンは満足したようにカップ酒を飲み干して、もう一杯注文しました。

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新刊紹介

高橋勅徳

たかはし・みさのり
東京都立大学大学院経営学研究科准教授。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。2002年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。
専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。
2009年、第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。2019年、日本NPO学会 第17回日本NPO学会賞 優秀賞受賞。
自身の婚活体験を基にした著書『婚活戦略 商品化する男女と市場の力学』がSNSを中心に大きな話題となった。

Twitter @misanori0818

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