2023.2.20
みんながほしいサービスなのにどうして提供されていない? 魚のさばき屋さんの「価格」を考える
高橋さんが提唱するのは、競争せず気楽に稼ぐ「そこそこ起業」。
前回は、新宿歌舞伎町の飲み屋で知り合った男性から聞いたお話についてでした。
今回は、高橋さんの趣味である「釣り」および「魚をさばくこと」から、そこそこ起業の本質に迫ります。

4年ほど前のちょうどこの時期、私はニュージーランドのタウポ湖畔のロッジで、現地のオヤジにつかまってウィスキーをごちそうになりながら、なぜかニジマスの調理法を聞かされていました。
「レインボーはその日に釣れた新鮮なやつがベストだ。サーモンならよりgoodだね。フィレのところを切り出して、塩を振って冷蔵庫に入れて1時間位寝かせておく。水分が浮いてくるからキッチンペーパーで丁寧に拭き取ってから、小麦粉にまぶしておく。いいか、水分を拭き取るのを忘れちゃ駄目だぞ。臭みが出てしまうからな」
ことの始まりは、大学院時代からの友人が在外研究の機会を掴み、ニュージーランドの大学に赴任したことでした。
ニュージーランドといえばトラウト類を中心としたスポーツフィッシングの先進地域として有名です。その中でもタウポ湖周辺は、世界中のフライフィッシングフリークが一度は訪れたいと憧れる釣り場です。
幼き頃に亡父に教わった渓流釣りで渓流魚の美しさに魅了され、釣りキチ三平に影響されて就職後にフライロッドを手にしてこの時15年目、「今年こそはタウポへ!」と毎年思いつつ、移動距離と言葉の壁に阻まれて、泣く泣く見送るのが恒例行事でした。
ところが、その友人とメールでやり取りをしているなかで、週末には現地の友人たちとトレッキングやキャンプを楽しみ、どうやらタウポ湖にも何度も遊びに行っていることが解ったのです。
英語が堪能な彼が一緒なら、言葉の問題も現地の土地勘もすべてクリアできます。この機会を逃せば次は無いと思い、大慌てで年度末の業務を終わらせて1週間の日程をひねり出し、スポーツフィッシングのフィールドワークのために、憧れのニュージーランドに旅立ったのでした。もちろん、いつかこの日のためにと準備していた、ニュージーランド対応のフライロッドをバッグの中に忍ばせて。
「エシャロットはみじん切り、ローズマリーは適当な大きさにちぎって、フライパンにたっぷりのバターと一緒に入れて火にかける。じっくり弱火でバターを溶かしたら、そこにフィレを入れる。火は弱火のままだぞ。エシャロットやローズマリーを焦がさないように注意しろよ。そうしたら、エシャロットとローズマリーの香りを吸った溶かしバターをスプーンで掬って、フィレにまんべんなくかけ続けるんだ。気長に20分くらいだな。溶かしたバターで火を通すんだ」
残念ながら天候が悪くまともな釣りにならず、現地のスーパーで食材を買い込んで宿泊先のバーベキュースペースで夕食を作り始めると、ビールとウィスキーを持って現れた陽気なニュージーランド人のオヤジ二人組に、「今日は全然駄目で残念だったな。せっかくだし一緒に呑まねぇか」と誘われたのです。
彼らが泊まっているロッジの前には、釣り竿が数本立てかけられていて、明らかに釣り人です。現地の人のスポーツフィッシングに関する考え方を聞いてみたいところだったので、ちょうどよいと酒盛りが始まったのでした。
「最後に香り付けに白ワインでフランベして出来上がりだ。ソースはバターにオレンジをひと絞りして、軽く煮詰めたのがオススメだ。強火にするのはこの時だけだぞ。低温のバターでじっくり火を通したレインボーは、ジューシーで最高だぞ」
さんざん飲まされて泥酔した頃に、ふと「ニュージーランドではニジマスをどうやって食べるのがオススメなのか?」と聞いた時に、教えてくれたのがこのレシピでした。英国文化圏なので魚も肉も丸焼きか丸揚げで、味付けは塩とモルトビネガーのみという偏見しかなかったのですが、想像以上にちゃんとしたレシピでビックリしました。
奥様は料理が上手なんですねと私が感想を述べると、オヤジはブンブンと首を横に振ります。
「釣ってきた魚は、俺が料理しないと妻に怒られるんだよ」
「そうそう。大漁の時は、怒られるもんな!」
二人は指で角を出すジェスチャーをして、首を竦めます。
「日本でも一緒ですよ。うちも、魚を釣ったら料理するのは父親の仕事だったよ!」
私がそう言うと、「なんだ、日本でもそうなのか!」と大爆笑しました。
釣った魚を持って帰ったら、嫁さんに怒られる。実は世界共通の釣りオヤジの悩みなのかもしれません。