2022.11.21
老舗企業=シーラカンス? 日本で生まれた世界で一番古い会社から学ぶ身の丈に合った経営
高橋さんが提唱するのは、競争せず気楽に稼ぐ「そこそこ起業」。
前回は、異色肌ギャルメイクで注目を集めたmiyakoさんのエピソードでした。
今回は、日本にたくさんある1000年以上続く〈シーラカンス〉のような企業から「そこそこ起業」のヒントを学びます。

世界で一番古い会社は日本にある
2017年の盛夏の頃、私は熱海を訪れていました。
目的は、近年、商店街活性化に成功した熱海銀座商店街の調査のためです。
この商店街は、連載5回目の「異端の経営学者が最果てのゲイタウンで考えた『商店街活性化』の鍵」で紹介した木村先生の論文と同じく、遊休不動産をシェアオフィスや民宿に改装していくことで新たな人材を呼び込み、定期的にマルシェを開催していくことで新たに人流を生み出していくことで再生に成功しました。この再生を手掛けた株式会社machimoriの創業者が、東京都立大学の卒業生ということもあり、OB会の紹介で調査が実現したのでした。
木村先生と一緒にまちづくり研究を手掛けていたこともあり、私は出張先では商店街やまちなかを隈なく歩き、どの地域にどのような店舗が集積し、逆に空き店舗が多い地域は何処なのかを確かめるのが習慣になっています。例によって一通りのヒアリングを終えた後、夕食前に商店街をふらついているうちに、目を疑うものを発見しました。
創業和銅3年 小沢ひもの店
和銅?
あの和同開珎が発行された年の元号が和銅だから……710年に創業!
興奮した私は、速攻でスマホを手に取り、私の共同研究者の一人である曽根先生(静岡文化芸術大学)に電話をかけました。彼の研究テーマは、創業100年を超える老舗企業の事業継承です。新しい調査先を発見したかもしれないので、早速、情報提供をしたいと思ったのです。
「最古は金剛組の578年創業ですけど、和銅3年というのは凄いですね。もし、史料批判に耐えうる一次資料があったら、凄い発見ですよ」
老舗企業を求めて全国を飛び回り、未発掘の一次資料を収集し、古文書の解読まで行う曽根先生が言うには、近世(江戸時代)に起源を持つ企業は多いものの、中世以前になると少なく、飛鳥・奈良時代となるとめったに出会わないということで、大変興奮していました。
これは、かなりの発見になるかもしれないと、小沢ひもの店の件をmachimoriの代表者である市来さんに尋ねたところ、このお店はmachimoriの出資者でもあり繋がりがありました。これは思わぬ形で掘り出し物の発見をしたと喜んだのですが……1950年の熱海大火で肝心の資料や存在を確認できる文献が消失したとのことで、「創業和銅3年」というのは家族の間で受け継がれている口伝でしか残っていない記録でした。客観的に確かめられる資料が無いと学術論文にはならないので、残念でなりませんでした。