2022.12.19
京都の外れの伝説のカーショップで考えた「起業がもたらす幸福」とは?
高橋さんが提唱するのは、競争せず気楽に稼ぐ「そこそこ起業」。
前回は、1000年以上続く〈シーラカンス〉のような企業を取り上げました。
今回は、高橋さんが少年時代から好きだった「シトロエン」についてのエピソードです。

車が男の子の夢だった時代
車を持つことが、男の子の共通の夢だった時代が確かにあったと思います。ひょっとしたら、私(1974年生まれ)の前後が、その最後の世代なのかもしれません。この年代は物心がついた頃にはスーパーカーブームでミニカーを集め、思春期の頃にはバブル景気で各メーカーが四半期おきに新技術をコレでもかと搭載した新車を発表していた時代なのだから無理もありません。今では信じられないかもしれませんが、30年ほど前は男友達が集まって駄弁っているうちに、将来乗りたい車について語り合うことが日常でした。
「はぁ、シトロエン?」
私が大学生の頃、車好きの友人達の家で宅飲みしている時に、いつものごとく就職したら買いたい車が話題になっていた時、私が好きな車を告げると場が騒然としました。
「直列4気筒の2000ccで150馬力くらいしか無いぞ?」
「僕が欲しいのは初期型なんで、SOHCの直4で120馬力くらいだね」
インターネットのない時代、手元に資料もなにもないのに、エンジンの形式から最大出力まで頭に入っていて、スラスラ出てくるのも時代です。車好きは新車が出ると、自動車雑誌やディーラーのパンフレットを、隅々まで読んでいたものです。
「1.5トン近くあるから、走らんぞ?」
「200馬力以上あっても、日本で走れる場所ないやん」
「悪いことは言わないから、せめて後期型のV6の3000ccのにしとけ。190馬力出るし」
「別にエンジンにも馬力にも拘りないし。僕は、ハイドラクティブ搭載車に乗りたいの」
友人は「あ〜」としばらく唸った後、「ショップは慎重に選んどけよ」と苦笑しました。自動車もモデルチェンジを重ねるたびにエンジンはより大きく力強く、装備はより豪華になっていた時代に、性能も装備も一世代以上古い外車に乗りたいという人間は相当の物好きです。その中でも、「だめだこりゃ」と変わり者を通り過ぎて変態扱いされるのが、「ハイドラクティブ」というキーワードでした。
シトロエン・エグザンティア
この時、私が「乗りたい」といった車です。
友人が苦言を呈したように、動力性能も社内装備も同グレードの国産車と比べて一枚も二枚も落ちてしまいます。ちなみにこの車は、『カリオストロの城』でクラリスが運転していたことでも有名な2CVのような旧車ではなく、当時はバリバリの現行ラインナップで売り出されている車でした。ちょっとwebで画像検索をすればわかると思いますが、デザイン的にも端正ではありますが、当時の基準でも地味で格好良いとは言い難いものです。少なくとも、20歳そこそこの若者が、好んで乗る車ではありません。
そんなエグザンティアのどこに惚れ込んだのかというと、世界でこの車にしか搭載されていない「ハイドラクティブ」という特別なサスペンションが搭載されていたからです。