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文化系クラブに入った娘を「輝いてない」と叱る父 第9話 紋切り型パパ

 さて、小学校の水泳部だった頃は輝いていたと断言され、本当に父はわかってないのだと確信した。私の中で水泳っていうものは、憂鬱だった大会、楽しいと思ったことのない自主的に入ったスイミングスクールの厳しい練習、入部早々キャプテンから言われた「真面目にやれよ」、塩素を含んだ水を吸ってオムツみたいにパンッパンに膨らんだナプキン、どれも不快なものばかりで、いつもいつも鬱屈した表情で過ごす自分の姿が水泳部のハイライトだった。それが、父によると「輝いてた」そうだ。生理で休むなんて発想のない水泳大会で、パンッパンに膨らみ血の跡を滲ませた不衛生なナプキンを股に挟んで、輝く? 怒り以上に呆れ果てた。幼少期に父親に抱いた疑問は間違っていなかったのだと。

 幼い頃、父と近くの小学校に行き、私が回旋塔にぶら下がり父に回してもらったことがある。父が回しすぎたために、私の体は勢いよく浮き上がり、手は汗にまみれていて滑りそうになった。恐怖の顔で半泣きになりながら「やめて! やめて! すべる! すべる!」と必死で叫んだものの、父は笑いながら「ははは、なーにいってら、このぐれ大丈夫だべ」と言って回し続け、必死の訴えも虚しく私の小さな手は回旋塔の鉄の棒を離れ、体は宙に舞い、ザザザーっと膝から砂利の上に吹っ飛ばされた。当然、膝の内側は砂利にまみれ流血と痛みに驚いてわんわん泣き叫んだが、そんな私を見て父が言った言葉は「なして手離す?」だった。それも笑いながら。しかも泣き続けた帰路では「泣くな!」と怒られた。
 これ以外にも、まだ幼稚園に入る前、「高い高い」の要領で池の上に落とす真似をしてキャッチする遊びをしていて、私もキャッキャと笑っていた矢先、本当に手を滑らせて池に落とされたこともあった。また、家で絵の具を使って絵を描いていた日、母に褒められ気をよくした私が居間でタバコを吸う父に見せに行った時、私が絵を差し出した場所が灰皿の近くだったために、父がうっかりタバコの灰を落として絵を焦がしてしまった。盛大に泣き叫んだが、父は慌てる素振りもなく、火傷を心配して怒る母に対して軽く謝っただけと記憶している。
 

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新刊紹介

冬野梅子

漫画家。2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。2022年7月に、派遣社員・菊池あみ子の生き地獄を描いた『まじめな会社員』(講談社)全4巻が完結。
講談社のマンガWEBコミックDAYSにて「スルーロマンス」連載中。

Twitter @umek3o

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