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学校での人気を左右するのは「親の性格」!? 第6話 『花より男子』事件

それは、まだ別のどこかのことは知らない、遠い北の地での暮らしでした――

『まじめな会社員』で知られる漫画家・冬野梅子が、日照量の少ない半生を振り返り、地方と東京のリアルライフを綴るエッセイ。
前回は、初めての「いじめ」体験についてでした。
今回は、親友だったはずの、お洒落で人気者の女の子と「合わない」という事実に直面したエピソードです。
(文・イラスト/冬野梅子)

第6話 『花より男子』事件

 大人になっても人間関係は難しいものだが、思い返せば小学校低学年の頃には既にその難しさに直面していた。
 私にはリエちゃん(仮名)という幼馴染がいた。家が近く、幼稚園に入る前からよく遊んでおり、小中高と同じ学校でほぼ毎日一緒に通学していた。いわゆる「私たちって親友だよね」と言い合うような関係だった。
 しかし、小学3年生くらいの頃から私たちの間にはパワーバランスが生まれ始めた。それがはっきりするのが「花より男子事件」である。

 当時、安達祐実やともさかりえと並び内田有紀が人気だった。とはいえ、流行りに疎かった私にとってはある日突然友人たちが話題にしだした芸能人という感覚で、特段ファンだったわけではない。しかし、リエちゃんは歳の離れた兄がいる影響か、芸能人やミュージシャンに詳しく、内田有紀が出ていた『半熟卵』というドラマを熱心に観ていた(ちなみに私はこのドラマで「半熟卵」という卵の形態を知った)。この頃、リエちゃんはユイちゃん(仮名)という子と仲良くなるのだが、ユイちゃんには2歳上のお洒落な姉がおり、二人はとても気が合った。

 ある日の帰り道、リエちゃんとユイちゃん、後ろに私がついて家路を歩いていると、二人が振り向いて「今度の日曜『花より男子』観に行くんだけど行く?」と聞いてきた。私は突然の問いに戸惑ったが、「お母さんに聞いてみる」とだけ答えつつも、暗い気持ちでいた。
 まず、既に二人の間では行くことが決まっていて、私の存在はあまり関係ないということ。そして、確実に母にはダメと言われることが目に見えていることが理由だった。

 案の定、母に『花より男子』を説明しても全く通じない。花より男子とはなんなのかと聞かれ、説明に困り壁に貼ってあった簡易的なホワイトボードにタイトルを書いて映画だと説明する。しかしおかげで余計にややこしくなる。「なにそれ? 花より男子って本当は『団子』っていう字が正しいんだからね?」と言われるが、そんなことは私だってわかっている。男子と団子をかけた、ティーンの恋愛ドラマであってシャレなんだよ、そんなこたぁ問題じゃないんだ。とにかく今人気の内田有紀が出る、そしてリエちゃんとユイちゃんと行くのだと説明するも、漢字を書いたことが仇となって、子供向けの健全な映画ではないと判断した母により一層反対された。わかりきってはいたが、心の中では、これではまたグループでの地位が下がってしまうと嘆いていた。私はこの頃からリエちゃんは私よりユイちゃんが好きかもしれないということを懸念していた。このままでは親友の地位がユイちゃんに奪われてしまう。というか既にそうなっているのだが、子供の頃はまだ二人と「おなじ」になれば好かれると信じていた。実際、内田有紀にも花より男子にもそれほど興味はなかったのだが、ちょっと大人びたものに熱中している二人はまるで先に大人になっているようで羨ましく、そしてなにより二人に友達だと認めてほしかった。

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冬野梅子

漫画家。2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。2022年7月に、派遣社員・菊池あみ子の生き地獄を描いた『まじめな会社員』(講談社)全4巻が完結。
講談社のマンガWEBコミックDAYSにて「スルーロマンス」連載中。

Twitter @umek3o

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