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文化系クラブに入った娘を「輝いてない」と叱る父 第9話 紋切り型パパ

それは、まだ別のどこかのことは知らない、遠い北の地での暮らしでした――

『まじめな会社員』で知られる漫画家・冬野梅子が、日照量の少ない半生を振り返り、地方と東京のリアルライフを綴るエッセイ。
前回は、テストの結果が思わしくない小学生時代の冬野さんに対しての、お母さんからの激しい叱咤激励のエピソードでした。
では、お父さんはどうだったかというと……。

(文・イラスト/冬野梅子)

第9話 紋切り型パパ

 小学校時代に最も楽しく取り組んだのは絵、それも漫画のような絵を描くことである。小学校5年生の頃は絵が上手い友達と漫画を描いて見せ合いっこする遊びにハマり、「絵が上手い人」にカテゴライズされている自覚もあったので得意になっていた。きっと中学校に上がり、美術部で真剣に取り組むことができれば、というか部活という名目のおかげで、今まで遊びの範囲だった絵について高いレベルを求められる状況になれば、さらに才能が開花するかもしれない、なんてことを期待していた。ちなみに、これまで絵のコンクールで賞を取るなんてことは一度もなかったが、それでも自信を持っていた。
 中学生になり、憧れの美術部に意気揚々と入部したものの、入ってみると美術部なんて名ばかりでなんの活動もないのが実態だった。顧問の先生すら思い出せないほど、先生が顔を出すこともない。美術部員は全員女子、おそらく15名ほど在籍していたが、いつも美術室に現れるのは私と、佐々木希似の可愛さで有名だったノゾミちゃん(仮名)、その友達のカナちゃん(仮名)、そして学年でもオタクと見なされていた3人ほどの女子のグループという計6名で、オタクグループの子達だけが熱心に漫画を描いていた。
 私が子供だった当時、オタクへの風当たりはまだまだ厳しい時代である。小学校6年生の頃には既に、少なくとも女子の中にはアニメの話をする人はおらず、漫画やアニメは卒業するものというイメージがあり、東京よりずっと遅れて放送されていたであろう『新世紀エヴァンゲリオン』も、私は誰にも言わずにこっそり観ていた。アニメを真剣に観ている人は実は少なくなかったと思うが、それを公言してはバカにされたりドン引きされたり、とにかく対等なクラスメイトとは見なしてもらえないという意識は多くの人が共有していたと思う。そのため、美術室で熱心に漫画を描いているオタクグループとは距離を置いて、私とノゾミちゃんとカナちゃんで放課後にダベる、これが部活の時間だった。

 最初こそ下水道ポスターのためのイラストを描いて提出するというミッションを与えられたが、それ以降は放課後の暇潰しにだらだらと喋り、絵の勉強のためという名目であれば漫画本を持ってきてもよかったので漫画を回し読みしたり、かなりだらしなく過ごした。正直、もうちょっと絵に取り組みたい気持ちもあったが、ノゾミちゃんの恋バナを聞いたり、好きな芸能人の話をしたりして過ごす放課後は楽しく、それを振り切って自発的に絵を描く気にもならなかった。
 それと同時に、私の絵に対する情熱などこの程度なのだということが証明されたようで、冷めた気持ちにもなっていた。というのも、小学校の卒業文集には将来の夢を漫画家と書いたが、中学生になるとその気持ちも薄れていたのだ。詳しくはいずれ書きたいが、私の両親の口癖は「将来は公務員か管理栄養士か薬剤師になりなさい」である。そして、やはり漫画やアニメは卒業するものという考えが一般的なので、私自身も漫画家になるなんて現実的でないし、こんな幼稚な憧れを持って恥ずかしい……と思うようになった。そういうわけで、結果的に無目的に美術部員をやっていた。

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冬野梅子

漫画家。2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。2022年7月に、派遣社員・菊池あみ子の生き地獄を描いた『まじめな会社員』(講談社)全4巻が完結。
講談社のマンガWEBコミックDAYSにて「スルーロマンス」連載中。

Twitter @umek3o

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