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文化系クラブに入った娘を「輝いてない」と叱る父 第9話 紋切り型パパ

 そんなある日、中学1年で2回目のテストの返却があった。前回も厳しく怒られたにもかかわらず、今回もさらに点数は下がっていた。これはやばい怒られる……と覚悟し、案の定両親の怒りはヒートアップし、人生で最も長時間説教されることとなる。帰宅してすぐ母にテストを見せると、深い嘆くようなため息と共に「くぁーーーーーーーーーー!」と甲高い今にも泣きそうな悲鳴をあげたかと思うと「ったくおめは……ハァまあいい」と言って食事の支度に戻った。一瞬「やったー怒られなかった」と喜んだのも束の間、夕食の時間も半ばの頃、母から父親にテストが渡され父親の大叱責劇場が始まった。上演時間はおよそ40分、私も箸の手を止め眉間に皺を寄せ俯きながら耐えた。
 父親の叱責には二つの意味で耐える必要がある。まずは声がでかい、机をバンバン叩く、時々頭を叩いてくることもあるので怖い、そして話している途中に若干悦に入る瞬間が垣間見え、振る舞いの全てが芝居がかっており、言っていることがどこか的外れなので、怒られている立場ながら大変な不快感がこみあげる。

 母は一貫して、私の頭の悪さと人間としての劣等性を結びつけ怒りつつ、そこに不出来な娘を持つ我が身の不憫さを嘆くというのが定番だった。これはおそらく本心なのでブレないものと思われるが、父の場合はどこかで聞いたことのある借り物の言葉と、芝居がかった「子供を叱る一家の大黒柱」の身振り手振りで「いいが? バンっ(テーブルを叩く)こんたら点数とってれば、おめ、どごの学校もはいれね? バンッ(テーブルを叩く)んあ? わがってんだが? ん? バンッ(テーブルを叩く)、おとさんもおがさんも、おめのために言ってらんだで? みれ? おかさんだってこうして、毎日おめのためにご飯つぐって……」とか、この辺りですでに「ん? なんの話?」と思わずにいられない。おそらくは、刑事ドラマの終盤にある人情の場面のような、犯人の良心に訴えかけつつ正義を説くような、そういう構成を元にしているのだろうと推察したが、やはり成績が悪いことへの指摘としてはちょっと参照する元ネタが間違っている気がした。そして極め付けは「いいが? 水泳部だった頃のおめは!! かがやいでだんだよ?!!」である。流石に厳しい顔でこちらを睨んでいた母も、「は?」と言いたげな顔で一瞬父を見ていた。言わんとすることはわかるが、テストの点数と小学校の部活の話は関係がない。祖母は祖母で、さすが父の母なので気の使い方がどこかズレている。「はははは」といつものように意味なく笑いながらテレビを消して、説教の妨げにならないよう配慮したようだった。いらない配慮だった。

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冬野梅子

漫画家。2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。2022年7月に、派遣社員・菊池あみ子の生き地獄を描いた『まじめな会社員』(講談社)全4巻が完結。
講談社のマンガWEBコミックDAYSにて「スルーロマンス」連載中。

Twitter @umek3o

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