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なぜ男は「ゴム無し無責任射精」にとらわれてしまうのか?【藤澤千春×山下素童 射精責任対談】

いま『射精責任』(ガブリエル・ブレア著,太田出版)が注目を集めています。望まない妊娠による中絶と避妊を根本から問い直す翻訳書ながら、発売即重版。
今回、『射精責任』日本語版の担当編集者であり、X(旧Twitter)での投稿で大きな話題を呼んだ藤澤千春さんにお話を聞きました。
聞き手は、新刊『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』の中で、男性の加害性や性的同意への葛藤を描いた山下素童さんです。

「射精責任ミーティング」で吊るし上げられる?

山下 『射精責任』もう発売してから2週間くらいですかね。反響はどうでしょうか?

藤澤 こんなに皆さんに買って頂けるとは、驚きました。翻訳でジェンダー本っていうと、出版では小っちゃい企画扱いなんですけど。発売してから3日くらいで増刷が決まったんですよね。で、その直後にAmazonの在庫も店舗への追加補充分の在庫も無くなってしまって。営業の人とかも「なんじゃこりゃ?」ってなってて。

山下 思ったより反響があったんですね。何が理由でそうなったと思います?

藤澤 4月末に発売前からTwitterで『射精責任』ってタイトルを出しただけで、いいねとリツイートが多くて。その盛り上がりが発売まで持続してくれたっていうか。

山下 かなり目を惹くタイトルですよね。『射精責任』というタイトルだけで話題になるなって目算はありました?

藤澤 タイトルでインパクト持たせてちょっとでもマシな売上になればいいなみたいな感じだったんですけど、こんなに話題にして頂けるとは想定してなかったです。

山下 タイトルにはこだわりました?

藤澤 『射精責任』の4文字でいきたいのはありました。四字熟語は強いので。原書は『Ejaculate Responsibly』なので直訳すると『責任を持って射精せよ』って意味なんですけど、それだと言葉としては強いけどちょっとインパクトは劣るので。社内の人からは本当にこの本を出すのか、って言われたんですけど。

山下 なるほど。社内の方が戸惑ったのはどこら辺でしょう。

藤澤 企画書に「ユーモアがある文体で読みやすいです」って書いたんですけど、偉い人たちの会議に持っていったら、「ユーモアの部分がよくわからなかった」「一方的に男性が責められている感じがする」って言われて。

山下 偉い人たちはどこら辺で責められてると思ったんでしょう。

藤澤 まず社内のミーティングの名前が「射精責任ミーティング」で、その時点で誰か吊るし上げられるの?みたいな(笑)

山下 (笑)

藤澤 まぁ、それは冗談ですけど。『射精責任』に書いてある内容がけっこう正論みたいなことが多い。コンドームをちゃんと着けましょう、コンドームを着けないってことは女性の身体にどういうことが起こるのか、っていうのをデータと共に淡々と書いていく。正論で詰められてるみたいな感じを受けたのかなって。「誰が読むかわからない」とも言われましたね。

山下 なるほど。

藤澤 私はそこでゴリ押しというか。「私が想定読者です!」みたいな。

山下 この本を出したいという気持ちが強かったんですね。

藤澤 そうですね。元々フェミニズムに興味あったのと、今までにない視点の本だなと思ったので。生殖における男性の当事者性っていうのは長年研究の蓄積があるんですけど、それが人口に膾炙してないので、世の中に問うてみたら面白いんじゃないかなって。

山下 なるほど。

藤澤 技能実習生の外国人の方が一人で赤ちゃん生んで捨てちゃったみたいな事件が話題になっていたこともあります。それとアメリカで起きた中絶の権利に対するバックラッシュというか、反対運動みたいなのが、日本でも起こり得るんだろうな、って気はしていました。

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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