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有象無象の怪しげな人物が暗躍するM&A業界。吸血鬼は誰だ!?

子会社の資産目当ての「吸血型M&A」

『社喰い』を読むと、大きな金額が動くM&A業界には有象無象の怪しげな人たちが集っていることがわかる。それを如実に表しているのが、2020年以降、船井電機を含めて経営権を持つ会社がころころと変わり、現在8社目というミュゼプラチナムが登場する第2章だ。同社には姿を現さない謎の経営者がいたり、ある日突然クーデターが起きたりと、「会社ってそんなことあるの?」の連続である。

 第3章には、「M&Aトラブルが社会問題化するきっかけをつくった」とされるルシアンホールディングス(ルシアンHD)、第4章には2023年3月に設立されてから27社以上のM&Aを行い、子会社化した企業とのトラブル、訴訟を複数抱えるマイスホールディングス(マイス社)が登場する。

 ルシアンHDとマイス社は、買収した企業の資産を吸い上げる「吸血型M&A」の事例だ。本書には、ルシアンHDに買収された東京・足立区にある内田建設がいかにして資産を失ったか、詳細が記されている。「親会社で資産を管理する」という名目で2023年2月から12月までの間に約1億6000万円がルシアンHDに渡り、その結果、資金繰りが悪化していく。

 ルシアンHDは内田建設のほかにも約30社を買収し、同様の手口で「吸血」しており、なかには倒産した企業もあるという。それが報じられたことで「吸血型M&A」の手口が広く知れ渡ったのだが、恐ろしいのは、「吸血型M&A」は違法ではないため、罪に問えないということだ。

 ルシアンHDの代表取締役は名前を変えて、いまも複数企業の買収を行っているそうだ。なんと、過去にも名前を変えており、現在の名前が少なくとも4つ目だという。

強欲で悪辣な吸血鬼たち

「吸血型M&A」を仕掛ける企業は、狙いを定めた経営者に甘言を弄して近づき、油断させておいて首元に牙を突き立て、最後の一滴まで血を吸い取って、干からびてしわしわになったらペッと吐き捨てる。その狙いは、事業ではなく土地や預貯金という「資産」だから、どれだけ資産を持っているかが重要だ。

 それでは、その情報を誰が持ってくるのか? 『社喰い』の4章に登場するマイス社の元代表は、片田江の取材にこう明かす。

「M&A仲介会社が買収候補として出してくる企業は、全て預金残高がある会社です。提案は“預金ありき”ですよ」

 マイス社は、買収した子会社から資金を移し、それを元手に新たな買収をしていた。元代表は、この「スキーム」を手ほどきしたのがM&A仲介会社であり、「仲介業者が自らの手数料確保を最優先に考えた構造だったのではないか」と主張している。

 先述したように、マイス社は短期間に多数の買収を行い、その資金を「吸血」したことで子会社化した企業とのトラブル、訴訟を抱えている。それを棚に上げるような言動ながら、もし主張が真実なら、M&A仲介会社にも責任の一端はあるだろう。

 僕が冒頭で「M&A業界にも」と書いたのは理由がある。僕はこの連載で、人口3万人の島で4000人の保険契約を取り、22億円の横領疑惑とともに海に消えたJA職員を追う『対馬の海に沈む』(窪田新之助著/集英社)や、保険営業の過酷なノルマ達成のために人を騙すことも厭わなくなった郵便局の闇に迫る『ブラック郵便局』(宮崎拓朗著/新潮社)、地方自治体の内部に巣食って甘い汁をすするコンサル会社の暗躍を暴いた『過疎ビジネス』(横山勲著/集英社)を取り上げてきた。

 個人、組織、誰をどう狙ったのかという違いはあれど、この3冊に登場する人物たちが限りなく黒に近い手法を駆使して、あるいは犯罪に手を染めて狙うのは「カネ」。

 その強欲さ、悪辣さは、「吸血型M&A」を行う事業者と同様に、手数料目当てでM&Aを煽り、莫大な利益を得てきたM&A仲介会社にも共通しているように感じる。著者によると、M&A仲介大手のなかにはノルマ達成のために強烈な追い込みをかけていたところもあるようだ。また、M&A仲介の仕事は契約を成立させることで、その後にどんなトラブルが起きても関係なく、知らぬ存ぜぬを通せるため、訴訟に発展しているような悪質なケースも「責任はない」というスタンスだという。

 法的には問題ないのかもしれない。しかし、M&A仲介会社やその社員が「吸血型M&A」の餌食になった経営者の無知や不注意による自業自得だと考えているとしたら、彼らもまた〝薄汚いハイエナ〟と言えるのではないだろうか?

 これまではダークサイドの世界を描いたノンフィクションを紹介してきた。次回はまた別の異世界、『365日AI AIだけで暮らしてみた壮大な実験の全記録』(ジョアンナ・スターン著 加藤輝美訳 ハーパーコリンズ・ジャパン)を紹介する。

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次回は10/22(木)公開予定です。

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川内イオ

かわうち・いお
ライター/稀人ハンター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を取材し、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。
趣味は読書で、ノンフィクションが大好物。
著書に『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』『農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ』(文春新書)『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』 (freee出版)など。2023年3月より「稀人ハンタースクール」を開校し、国内外のスクール生とともに稀人の発掘を加速させる。
新刊『煮魚をつくったら、人生の悩みがじわじわ消えた〜45歳からの大人の家庭科入門』が大和書房より発売中。

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