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頂き女子りりちゃんは現代の魔女!? 人心を操る天賦の才で取材相手をも惑わせる

周囲が危惧するほどの入れ込み

 12月に初めて顔を合わせてからわずか4カ月の間に、宇都宮の感情がジェットコースターのように揺さぶられているのがわかる。同じようなやり取りが続くなかで、宇都宮はどんどんりりちゃんの虜になっていく。

「彼女を慰めるために名古屋へと飛んだのだ」
「とにかく『接見』することだけに夢中になっていた」
「ついには途中から、(中略)名古屋市内に部屋まで借りて、拘置所に通った」

 失礼ながら、りりちゃんの事件を知った時、僕は被害者に対して、「なぜ途中で騙されてると気が付かないのか……」と憐れみながらも、「どうせ若い女性に目がくらんだんだろう」という小馬鹿にするような気持ちがあった。

 しかし、宇都宮の尋常ならざる入れ込みぶりを知って、ハッとした。りりちゃんは、15分の面会と手紙だけで同性の宇都宮ですら夢中にさせることができるのだ。被害者のように時間無制限でりりちゃんからアプローチされたら、自分は正気を保てるだろうか?

 本書には、詐欺マニュアル「りりちゃんの魔法」も紹介されている。その制作には「いかにヒモになるか」を指南して稼いでいた「貢がせ界隈」が関与していたこともあり、「微に入り、細を穿ち、よく考え抜かれている」そうだ。

 先述したように、このマニュアルは1000人を超える女性が購入したとされる。にもかかわらず、このマニュアルを活かして、または応用して、りりちゃんのように巨額のお金を騙し取った事件は報じられていない(まだ事件化されていない可能性はあるが)。そう考えると、3人から1.5億円を巻き上げたりりちゃんの特異性が際立つ。

 さらに、本書には自分を気遣ってくれる女性看守に対して「ママ」と呼んで甘えていること、ファンから多くの差し入れがあること、逮捕前からの知人たちが「更生を手伝いたい」とボランティアで立ち上げた「被害弁済プロジェクト」も紹介されている(後に解散)。

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味方になる人を嗅ぎ分け、惹きつける才能

 本書を読み進めていたら、ひとつの仮説が思い浮かんだ。

「りりちゃんは、人を思い通りに操る天性の才能があるのではないだろうか?」

 本書の終盤に突然、「新しい支援者」が登場したことで、この仮説はあながち的外れではないと思った。この支援者からもお金の匂いがするのが、象徴的だ。

 では、なぜりりちゃんは宇都宮を? これは僕の想像……というより妄想かもしれないが、記者の宇都宮を味方につけることで自分の裁判を有利に進めようと図ったのではないだろうか? 

 しかし、宇都宮は、騙された男性への取材をきっかけに我に返り、りりちゃんと距離を置く。そして、いかに自分を見失っていたかも、率直に記す。    

「取材対象者とは一線を引き、一定の距離を置くことを心掛けていた。つまり渡邊被告とのやり取りは、私にとって記者としての信条に反することだった。しかしこの時は、そのことに自分ではまったく気が付かなかった」

 本書は「頂き女子りりちゃん」ではなく、渡邊真衣の人となりに迫るノンフィクションとして秀逸だ。同時に、人心を惑わせる現代の魔女の物語としても楽しめる。数年後、懲役を終えて出所したりりちゃんがどう生きるのか? 宇都宮に追ってもらいたい。

 これまでは日本のノンフィクションを紹介してきたが、異世界はもちろん海の外にも広がっている。次回は今、日本でも問題視されているデジタル性犯罪の犯人を追い詰めた女子学生のチーム「追跡団火花」にスポットライトを当てた韓国のノンフィクション『n番部屋を燃やし尽くせ デジタル性犯罪を追跡した「わたしたち」の記録』(光文社)を紹介する。

次回は5/28(木)公開予定です。

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新刊紹介

川内イオ

かわうち・いお
ライター/稀人ハンター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を取材し、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。
趣味は読書で、ノンフィクションが大好物。
『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』『農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ』(文春新書)『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』 (freee出版)など著書7冊。2023年3月より「稀人ハンタースクール」を開校し、国内外のスクール生とともに稀人の発掘を加速させる。

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