2019.8.2
四季を感じる和牛料理、日本人の心に染み渡る肉割烹の世界
例年よりも長かった梅雨が明け、突然激しい暑さがやってきた。
息苦しくなるような暑さに疲弊しながらも、この四季こそ日本の良さでもあると確信できる場所がある。
西麻布の交差点のすぐ裏手にあるビルを地下に降りる。
落ち着いた雰囲気の中で、カウンターに置かれた牛肉が存在感を放っているのが、ここ、肉割烹 【上】。
2017年8月にオープンして、今ちょうど2周年の時期だが、すでに昨年はミシュランの☆を取っている。
店主は大久保丈太郎さん。
日本料理の世界で修業を積み、和牛の魅了に憑りつかれて焼肉の世界へ。
そして、積み上げた経験と技術を全て活かす場所として、肉割烹というスタイルの上をオープンした。
上が仕入れるのは生産者や血統までこだわり抜いた牛肉のみ。
全国の和牛改良の素となっている兵庫県の純但馬血統。
その純但馬血統の素牛を肥育した牛しか名乗ることの出来ない神戸ビーフや三田牛を仕入れている。
また、キメが細かく肉本来の味わいが深い雌牛のみという徹底ぶり。
ここまで厳選していれば、生で食べても、軽く塩を振って焼いて食べても、どうやって食べても美味しいのは間違いない。
この100点満点の素材に手を入れることで、さらに上の120点に仕上げてくれるのが店主の技術であり、季節感を感じ難い牛肉を他の食材と合わせることで、日本料理的な四季を感じさせてくれるのが肉割烹の真骨頂。
メニューはその時期ごとの食材によって変わってくるようだが、今回は2019年7月某日に味わったメニューを紹介したい。
牛肉の旨味と鼈の旨味がバランス良く絡み合ったスープ。
一口飲む前から芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、コンソメを舌の上で転がすと、上品で力強い旨味が襲ってくる。
スープに入ったジュンサイの滑らかな舌触りと心地良い食感が、見事なアクセントにもなっている。
夏らしい涼しげな一皿。
主役はあくまでも柔らかく煮込まれた黒鮑。
だが、その主役の素晴らしさを引き上げるのが脇役のコンソメの力。
牛コンソメのジュレには、そんな脇役の力が宿っている。
僅かなご飯の上には、ランプ、白海老の紹興酒漬け、噴火湾の毛蟹、小樽の塩水雲丹、キャビアといった目にも鮮やかで豪華な食材がたっぷりと乗っている。
それらの食材をスプーンで混ぜ合わせると、小さな器の中で選ばれた素材達が手を繋いだように、見事に味がキマる。
どれ一つとっても欠けてはならないバランスで、旨味が脳に直接届くようだ。