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【中村憲剛×田中ウルヴェ京対談 後編】自分の弱いところや嫌な部分こそが宝箱だよと伝えていきたい

ウルヴェさんとの対話の中で、指導者として重要なことを学ぶ中村さん。
ウルヴェさんとの対話の中で、指導者として重要なことを学ぶ中村さん。

自分の弱いところは宝箱である

ウルヴェ
この前、アスリートではなく活躍中のビジネスパーソンとセッションをしたときに、最初は「自分のことを見つめるのが嫌だ」と。でも私は、「自分の弱いところって宝箱ですからちょっとずつ開けていきましょうよ」って。

中村
宝箱という表現がいいですね。

ウルヴェ
その方は、自分が弱いからこそ強くなろうとしたということをまずおっしゃって。そのうちに、言葉になってなかった弱いところとかコンプレックスに感じたこととかがちょっとずつ出てくるようになって。出てくるとご本人すら気づいてなかったもっと奥深い弱点とか苦しみ、悲しみが出てくるようになって。それは、自分の源にあるものだから、もうちょっと出してみましょうよって。そうして宝箱を開けていくときの表情ってみなさん素敵なんですよ。

中村
京さんの著書に、自分の性格について「敏感」だと書かれてありました。僕も敏感な性格だと思っていますが、敏感であることは良いことなんですかね?

ウルヴェ
敏感で“心配り”ができるのは良いことだと思う。でも“心配り”が“心配”のほうに傾いてしまうとあんまり良くないかな。でも、鈍感な人が敏感になるのは、なかなか簡単じゃない一方で、敏感な人は捉え方を変えていくことができると思います。

自分に声がけしていくことで、自分の脳をだませる

中村
たとえば今、全世界的にアスリートがSNSをやらないとか、(何か書かれることを)見ないとか、ほぼほぼ不可能じゃないですか。敏感な人ほど、それに対応することが難しいなってやっぱり思うんですけど。

ウルヴェ
(差別や誹謗中傷は論外として批判など)SNSでアタックする人がいるでしょ。やられるほうはもちろんなんだけど、これはやるほうも心の健康に良くない。心理学の観点で言えば、他人をどんなにアタックしても本人の本当の課題が解決されるわけではないから、やればやるほど満たされなくなるというマイナススパイラルにはまってしまいます。

中村
アタックされたほうが思わずその言葉を見てしまうと、傷つく人も多いと思うんです。

ウルヴェ
もちろんです。でも、「見ちゃダメよ」だけじゃ何も解決にならないこともあって。もし見ちゃったら、冷静に捉えましょうっていうことが大事なのかな。そのアタックが、事実であれば反省してもいいし、事実じゃないなら捉え方を変えればいいと、私は思う。憲剛さんは自分や所属チームが、そういうアタックを受けたときってどうしていたの?

中村
的外れなときもあるじゃないですか。そういうときはまさに捉え方を変えて、自分のために時間を割いてくれてありがたいな、と思っていましたね。

ウルヴェ
私はメディアでコメンテーターをさせていただいているんですけど、自分でも、「あのコメントは良くなかったかな」と思っていたときにアタックされると一番心が痛みます。反省しているうえにアタックされるわけだから。そんなときは周りの人に「落ち込んでます……」ってメソメソ言って、2日くらい経ってやっと立ち直れる。洗面所の鏡を見て「あなたは敏感だからね。頑張ったね、偉いね」って必死に言ってあげないとやっていけません。

中村
自分に声を掛けていく、と。

ウルヴェ
コーチングの用語に“オートクライン効果”というものがあって、自分の言葉によって考えに気づかされるというものなんです。この効果と一緒に深呼吸も連動させたりすると、私自身が元気になってなくても、脳が元気になる。自分の脳ってだませるんです。

中村
だませるんですね(笑)。

ウルヴェ
そう。あと、本心では楽しくないとき顔をひきつらせてでも笑ってみると、幸せだと感じるという研究もあります。あとはやっぱり家族とか周りに、自分を理解してくれる人がいるなら、その人に悩んでいることを伝えてもいいですよね。

中村
そういう意味では僕は奥さんには相当助けられています。受け止めてくれる人が一人いるだけで全然違う。京さんから教えていただいた“心理的安全性の確保”というものですかね。

ウルヴェ
奥さまの存在、ありがたいですね。

中村
はい。「これ言ったらどう思われるかな」って心配をしなくていい存在なんですよね。でも、京さんのセッションを受けている人にとっては、京さんがまさにそんな存在なんでしょうね。

ウルヴェ
憲剛さんにそう言ってもらえるだけで光栄です。

中村
今日の対談も勉強になりました。僕のメンタルコントロールは我流でしたけど、ずっと自己分析してきて、それはやっぱり自分を知ることでもありました。だから育成年代の選手たちに携わる時に、「自分がどういうプレーヤーで、何ができて、何が足りなくて、どこか長所で、どこが短所なのか」を知ったほうがいいとは、ずっと言ってきましたけど、これからもしっかり伝えていかなきゃなって感じました。

ウルヴェ
“セルフ・アウェアネス”、つまりは自己の気づき。自分を知ると、自分の嫌なところも見えてくるから人はなかなかやりたがらない。でも、嫌な部分こそが自分の宝箱だよって私も伝えていきたいと思います。

中村
これからもLINEグループ含めいろいろと相談させてください。選手たちにする自分のアドバイスが合っているかどうか、確認できることはとても貴重なので。

ウルヴェ
私だって貴重ですよ。憲剛さんが、どんな指導をしてどのような効果があったのか分かるわけですから。これからも何でも教えてくださいね。

中村
ホント心強いです。

【ケンゴの一筆御礼】

京さんと話をすると、いつも新しい何かを発見させてもらえます。今回の前編の対談にもありますが、京さんと元チームメイトの武岡優斗との3人で食事をした際に、PKを蹴る際の心理状態を聞かれました。そこまで気にも留めなかったことを心理的に細分化していくことで、気づかなったことに気づく作業にもなるわけです。そして京さんの言葉は的確で分かりやすく胸にスッと入ってくる。自分も指導者として選手たちにこういうふうに伝えられたらなって、いつも思います。だから、考え方もそうですけど、伝え方も参考にさせていただければと思います。これからも僕の悩みをバンバンぶつけていくと思うので、よろしくお願いいたします!

この連載は不定期連載です。次回はどんなゲストが登場するか? お楽しみに!

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中村憲剛

なかむら・けんご●1980年10月31日生まれ、東京都出身。中央大学卒。
2003年、川崎フロンターレに入団。20年の引退まで同チーム一筋のレジェンド。Jリーグベストイレブン8回。16年にはMVPも受賞。日本代表国際Aマッチ68試合出場6得点。10年南アフリカW杯、出場。最新刊『ラストパス』は現在4刷で話題。
公式ブログ■中村憲剛オフィシャルブログ
公式X@kengo19801031
公式インスタグラムkengo19801031

田中ウルヴェ京

たなか・ウルヴェ・みやこ/1967年2月20日生まれ、東京都出身。
1988年にソウル五輪シンクロ・デュエットで銅メダル獲得。10年間の日米仏の代表チームコーチ業とともに、6年半の米国大学院留学で修士号取得。2021年、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科博士課程にて博士号取得。
現在、慶應義塾大学特任准教授、日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士、国際オリンピック委員会(IOC)Revenues and Commercial Partnerships委員、日本人初IOC認定アスリートキャリアトレーナーをはじめ、 様々な委員をつとめる。著書・訳書も多数。
アスリートが人生の意味を考える学び場「iMiA(イミア)」主宰。iMiA公式サイト
公式HP田中ウルヴェ京 公式ウェブサイト

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