2021.12.11
【中村憲剛×横田真人対談 前編】川崎フロンターレの取り組みも参考に、地域密着の新しい陸上競技クラブを作る
米国公認会計士資格も持つ異色のランナーは引退後に指導者に転身し、現在は「TWOLAPS TRACK CLUB」を立ち上げ、東京オリンピック陸上女子10000mに出場した新谷仁美選手(積水化学工業)や1500mに出場した卜部蘭選手(積水化学工業)らのコーチを務めています。
一方で、今年は中距離に特化した大会「TWOLAPSミドルディスタンスサーキット」を開催。高額の優勝賞金が出たり、市民ランナーと一体となるイベントで盛り上がりを呼び込むなど陸上界の“人気向上仕掛人”としても有名。ファン獲得のために参考にしているのが、実は地域密着の成功クラブとして知られる川崎フロンターレだということで……。連載初の完全初顔合わせの対談、スタートです。
(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷 貫)
“中距離”という劣等感からうまれた新しい陸上大会
中村
はじめまして。お会いできるのを楽しみにしていました。
横田
こちらこそです。じつは「TWOLAPS TRACK CLUB」に熱烈なフロンターレファン、憲剛さんファンがいまして。卜部蘭っていう。
中村
もちろん、知っています。SNSでもフォローしていただいていて。
横田
彼女からよくフロンターレのこと、憲剛さんのことを聞かされているので、僕こそお会いできて本当にうれしいです。
中村
この対談にあたって、いろいろと横田さんに関する記事を読ませていただきました。中距離の陸上大会(TWOLAPSミドルディスタンスサーキット)を自分で開催するなんて、すごい行動力、パワーだなって。ゼロからイチにするって簡単じゃないと思うんです。なぜ、開催しようと思ったんですか?
横田
言葉にするなら“劣等感”ですかね。
中村
というのは?
横田
走る種目のなかでは100mとか短距離が特に注目されます。長距離も駅伝やマラソンは注目されますよね。唯一、日の目を浴びていないのが中距離なので。
中村
サッカー選手は結構、中距離(の練習)やってますよ。長距離なら逆に開き直れるけど、800m、1000mとなるとちょっと気持ちが萎えます(笑)。スピードも持久力も求められるから、中距離って限界が引き出される感じがあります。
横田
僕も現役時代はそうでした。毎日、はいつくばっていましたから(笑)。
中村
その中距離を盛り上げていこう、と。
横田
まさにそうです。大会は、大阪(8月)、福島(9月)、東京(10月)と3会場でやったんですが、大会ディレクターを出場する選手にやってもらったんです。それも会場別に違う選手に。
中村
それは面白そう。
横田
大阪は大阪出身、福島は福島出身、東京は東京出身の選手にしたら、みんな個性的なアイデアを出してきて。まず大阪出身の石塚晴子選手はイラストを描くのが上手で「漫画にして参加者増やします」と宣言したら、それが本当にSNSでハネて。
福島出身の田母神一喜選手は福島の子供たちに対する愛情が半端なくて、小学生ランナーに800mのレースの先導をやってもらうというアイデアを出してきたんです。中距離の面白さってラストスパートにあって、そこを強調させるために400mまでは小学生を追い抜いちゃいけないというルールにして。そうなると必然的に遅くなるのでスパート合戦になる。観ている人も面白いし、小学生にとってもスペシャルな経験になる。結構ペースを上げ下げして、揺さぶってきたんですよ(笑)。
中村
すごい(笑)。小学生にとっては忘れられない経験になりますし、終盤のスパート合戦における駆け引きも、競技の面白さが凝縮されているので間違いなく、盛り上がりますね。
横田
東京大会は、フロンターレファンの卜部がディレクターを担当して、ファンとの交流をテーマにしたい、と。それで最後にファンもスポンサーもメディアも誰でも参加できるリレーをやりたいって言い出して。募集をかけたらびっくりするくらいの数でした。
中村
走ることや体を動かすのが好きな人が観戦に来ますもんね。その人たちに走るきっかけを与えるという発想、卜部選手さすがですね。
横田
フロンターレスピリットだと思います(笑)。
中村
それは嬉しいですね。色々と頑張ってきて良かった(笑)。いろんなアイデアが詰まった大会だったんですね。
●小学生ランナーがペースメーカーを担当した800mレースの模様。