2026.6.17
シニア犬でも元気だったコーダが、まさかの癌⁉ 【サーフィン犬 コーダが教えてくれたこと 第8回】
犬と暮らす楽しさ。スポーツや遊びを通じて犬とわかり合う楽しさ――。
ドッグトレーナーになってからは、動物たち本来の性質に則ったQOL(生活の質)に配慮する「動物福祉」の考え方をもとに、飼い主と犬がより良い関係を築くためのサポートをする浅野さん。この、人間の都合だけによらない「動物福祉」の考え方が世界中で広まりつつある今、長く続いて来た“人と犬とのパートナーシップ”についてもまた、改めて考えてみたい。
前回では、イタリアに渡航し、無事ギネス世界記録を達成したコーダ。そのコーダにまさかの病気が判明して……⁉
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「最近少し太ったかもしれない」から、まさかの余命1ヶ月宣告

コーダがギネス世界記録に挑戦する様子を、SNSを通じてたくさんの方々に知っていただいたことで、今までとは少し違ったタイプの仕事のお話も来るようになりました。これまでは動物番組の取材や雑誌のインタビュー、犬関連の記事監修などが多かったのですが、今度は、ペット食品・ケア用品等を扱う企業からお声がけをいただき、その企業広告にコーダと私が出演することに。CMのテーマは、「いっしょに、めいっぱい、生きていこう」。出演者の選考基準は「犬と一緒に生き生きとしたライフスタイルを送っている人」とのことでした。
そのCMを撮影するのは、なんと!水曜日のカンパネラやVaundyのミュージックビデオなども手がける、今をときめく藤代雄一朗監督。撮影は、コーダと私がイタリアから帰国してからおよそ3週間後の3月25日から、4日間のスケジュールで行われました。その撮影した映像を見せていただいた時、私は少し驚きました。なぜならその映像がもう、ものすごく自然に“いつもの私たち”だったからです。近所でボール遊びをしたり、幕張のドトールでふたりでお茶したり。そこには、普段と何ら変わらない“私たちの時間”が切り取られていました。
「いっしょに、めいっぱい、生きていこう」
初めてアフレコもやりました。演劇を目指していたことがあるので、セリフや演技の練習はしたこともあるのですが、撮影のために用意されたこのセリフは、私にとって、演技をする必要はないものでした。ただ心から、コーダに向かって言いました。本当に、これからもずっといつまでも最高で最愛のパートナーとして一緒に生きていたい。そんな想いをこめて。
「追加で映像に入れるかもしれないから、コーダが笑顔の写真を何枚か送ってほしい」と言われたため、私はこれまでに撮りためたアルバムの中からコーダの笑顔を探しました。そこにあったのは、どんな時でも私のそばにいて、どんな場所でも楽しんでいる笑顔のコーダ。この連載の第1回で、先代犬ココが亡くなった時、楽しいと犬も笑顔になることに気づいたと書きましたが、目元がやさしくなって、口の横の筋肉が緩み少し口角を上げて舌を見せる、リラックスしたコーダの笑顔が、いつでも私の原動力なのです。藤代監督にコーダの笑顔の写真を数枚送り、CMが放映されるのを楽しみに待ちながら、“いつもの私たち”の日々は過ぎていきました。

東京で年に一度開催されるペットの産業見本市、インターペットのビジネス向け来場日である2024年4月4日。その前日の夜中にコーダが耳を痒がっていたので、イベントへ行く前に家の近くの動物病院へ。サクッと診てもらい、痒み止めを処方してもらっておこうと、軽い気持ちでした。
獣医さんに耳を診てもらいながら、世間話程度の気分で「最近コーダが太ったような気がするんです」と話したところ、「確かに右の腹部が張っているようなのでエコーとレントゲンを撮りましょう」と言われ、コーダは奥へと連れて行かれました。ちょっと耳を診てもらうだけのつもりで来たけれど、10歳から薬を飲んでいる持病の心臓病が悪化したのだろうか、イタリアへ行って無理させてしまったのが良くなかったのか、今日はもうイベントに行かない方が良いのか…と色々な不安がぐるぐる巡り、心臓がバクバクしてきました。
再び名前を呼ばれ診察室に入ると、中にいたコーダは、病院で預けられるのが嫌でややハァハァと息を切らしていました。そして獣医さんから、思いも寄らない結果を告げられたのでした。
「腹部に、握りこぶしくらいの大きな腫瘍が認められます。肝臓とか、腎臓とか皮膚に属する腫瘍じゃないのでまだよく分からないのですが…。去勢もしてます(だから精巣に属する腫瘍ではない)もんね」。診察結果のデータをもらい、その足ですぐに埼玉にあるかかりつけの病院に向かいました。
――何かの間違いであって欲しいと思いました。イタリアに行く前に健康診断も血液検査もして心臓のエコーも診てもらっているし、空港の検疫所でも行く前と帰ってきた時に獣医師による診察を受けているし、イタリアで出国のためのスタンプをもらう時も現地の獣医師に診てもらっているし、ギネス世界記録の番組収録の際にも獣医師に診察を受けているんです。5人の獣医師が、握りこぶし大もある大きな腫瘍を見落とす事なんて、あるはずがないのでは?
埼玉のかかりつけの動物病院で再びエコーとレントゲンを撮りましたが、やはり腫瘍が認められるとのことで、これが悪性か良性なのか調べる必要があるからと、さらに大きい病院、所沢にある日本小動物が ん センターへの紹介状を書いてもらうことになりました。
「がんセンター」。……コーダは癌なんだ。
その場で崩れ落ちそうでした。コーダはそんな体で私と一緒にイタリアへ行ってくれたんだ。それから日本に帰ってイベントに出て、CMの撮影をして、今やっと癌であることが分かったのだ……。
日本小動物がんセンターで行ったCT検査の結果は、精巣癌からリンパ転移した腫瘍と精巣癌由来の肛門腺腫瘍。そしてまだ小さいけれど肺にも恐らく悪性の腫瘍があることがわかりました。
コーダは生まれつき停留睾丸だったため、開腹による去勢手術を1歳半の時にやりました。比較的簡単な手術でどこの病院でも問題ないと聞いていたので、家の近くにある動物病院を選択しました。その時獣医師からすべて取りのぞいたと言われた精巣がどうやら残っていて、その精巣が、握りこぶし大の癌になったのです。
思えばコーダはこれまでに未避妊の雌犬に反応したりすることがよくあり、去勢しているのに反応してしまうのは私のトレーニングが未熟だからだと恥ずかしく思ったこともあったのですが、違った。コーダのせいでは無いともちろん思っていたけれど、私の育て方のせいでもなかった。……それでも、簡単な手術だからと安易な病院選びをしてしまったのは私のせいです。精巣や卵巣といった臓器を摘出することは、犬が私たち飼い主と生きていく中では必要ないとしても、犬の命に関わる重大なことなのです。
コーダが死んじゃうかもしれない。でも、当の本人は犬だから自分が癌だなんて知りません。いつもの、もの静かでやる時はやる男、スケボーの腕前だって世界一です。食欲もあって、私が何で泣いているのかだってわからないから、おい落ち着けよっていう感じです。
腹部だけで8つある腫瘍を切除する手術の成功の確率は70%、手術で命を落とす確率が30%あると言う事でした。それに、たとえ手術が成功してもその後体調を崩して亡くなるシニア犬も多いと聞き、私はどうすれば良いのか選択できずにいました。でもこのまま放っておいたら、コーダの余命はおそらく1ヶ月……。コーダの場合は腹部の精巣癌と肺の癌があり、開腹手術と開胸手術で2回手術をしなければならないのだそうです。他の治療法として抗がん剤もありますが、副作用がきつく、免疫力も低下するので思いっきり遊んだり、大好きな海に入れなくなってしまう。ただ手術の失敗が怖いという理由で抗がん剤を選んで良いのか。生きることだけを優先してコーダの生きがいを奪っても良いのか。
今思えば、このころからコーダのことで“選択をしなければならないこと”が、次々にやってくるようになっていました。

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