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夏でも鳥肌が立つ“天然の冷蔵庫”は、中に入るのではなく、上を歩く! 日本一の雪上の道「白馬大雪渓」【山の名&珍プレイス 第7回】

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残念ながらちょっと無理です! 天然雪のかき氷

 ところで、“夏に雪の上を歩く”という話になると、雪をカップなどにすくいとって、かき氷のようにして食べてみたいという人がいらっしゃるかもしれない。しかし、その楽しそうな願望は、雪渓上の現実を見ると、あっという間に打ち砕かれる。雪渓の雪というものはまったくもって清潔ではないからだ。真冬の新雪であれば真っ白で食べられなくもないが、秋に向かって時間が経つにつれて雪渓の上には周囲の山から土砂などが降り注ぎ、雪が融けるに従って次第に濃縮され、表面に集まっていくのである。

トレッキングポールの先端で指した雪の上は、周囲から落ちてきた土砂や木の葉の欠片などでかなり汚れている。春先には黄砂によって、薄っすら茶色くなっていることもある
トレッキングポールの先端で指した雪の上は、周囲から落ちてきた土砂や木の葉の欠片などでかなり汚れている。春先には黄砂によって、薄っすら茶色くなっていることもある

 山歩きを始めたころ、僕もそんな願望を持って雪渓の上を歩いたことがある。だが、バックパックの中に入れておいた甘いコンデンスミルクを雪の上で出すこともなく、汚れた雪に意気消沈して、そのまま自宅に持ち帰ることになったのであった……。

 さて、標高を上げていくと、いつしか雪渓の上の道も終わりになる。正確に言えば、雪に覆われていた一般登山道が表面に露出してくれば、歩行ルートをより安全なそちらに切り替える。一般登山道は雪の影響が少ない場所では、ただ「登山道」としか呼ばれないが、雪渓に沿うようにつけられている場所では、雪上のコースと区別するために「夏道」などと呼ばれている。

下部が空洞になり、崩壊しつつある雪渓上部。こんな場所は危険すぎて歩けない
下部が空洞になり、崩壊しつつある雪渓上部。こんな場所は危険すぎて歩けない
稜線が近付くと、いかにも北アルプスらしい岩峰が目に飛び込んでくる
稜線が近付くと、いかにも北アルプスらしい岩峰が目に飛び込んでくる

 夏道に入る前に、雪渓コースの最上部では多くの登山者が先ほどまでシューズに取り付けていたアイゼンを取り外す。あとは白馬岳の山頂を目指していくだけだ。

最上部から白馬大雪渓を見下ろす。ここでは多くの登山者がアイゼンを外しながら休憩している
最上部から白馬大雪渓を見下ろす。ここでは多くの登山者がアイゼンを外しながら休憩している
雪渓はまだ続いているが急斜面。露出した「夏道」のほうが安全で歩きやすい
雪渓はまだ続いているが急斜面。露出した「夏道」のほうが安全で歩きやすい

 白馬岳は高山植物の豊富さで知られ、それを目当てにしている登山者も多い。大雪渓の存在でもわかるように白馬岳の山域には冬季の大量の積雪によって地下水が多く、高山植物が繁茂する一因になっている。

白馬岳は高山植物の豊かさで有名。夏道の周りには多くの花が咲いている
白馬岳は高山植物の豊かさで有名。夏道の周りには多くの花が咲いている
登山道の脇は現在咲いている花が画像付きで紹介されていた
登山道の脇は現在咲いている花が画像付きで紹介されていた
稜線近くで見かけたタカネイブキボウフウ。高山植物の開花は初夏に多いが、この花は9月にも見られた
稜線近くで見かけたタカネイブキボウフウ。高山植物の開花は初夏に多いが、この花は9月にも見られた

山頂に大きな風景指示版が置かれているのも、大雪渓のおかげ

 白馬大雪渓にまつわるエピソードでもっともおもしろいのは、山岳小説の大御所・新田次郎の史実をもとにした直木賞受賞の小説『強力伝ごうりきでん』(新潮文庫)のモチーフになった、白馬岳山頂に置かれている風景指示盤の台座の石に関することだ。この台座の石は、富士山の強力(荷物を運ぶ人)であった小宮山正が1941年8月にひとりで担ぎ上げたものだが、その重量はなんと五十貫(約188kg)。白馬大雪渓は山麓から山頂までの最短ルートであり、傾斜や起伏が緩やかだったことから、多くの困難を乗り越えてなんとか成功を収めている。それにしてもひとりで188㎏とは、身軽なスタイルで雪渓上を歩いているだけで疲れてしまう多くの登山者には想像もつかないことに違いない。

稜線まで上がれば、山頂まで1時間もかからない。山頂寄りには日本最大の山小屋である白馬山荘が建っている
稜線まで上がれば、山頂まで1時間もかからない。山頂寄りには日本最大の山小屋である白馬山荘が建っている
白馬岳山頂の風景指示版。茶色の銅板の上に周囲に見える山の名前が書かれている
白馬岳山頂の風景指示版。茶色の銅板の上に周囲に見える山の名前が書かれている
中央上の丸い部分が風景指示版で、その下の円筒が小宮山氏の運んだ台座だ
中央上の丸い部分が風景指示版で、その下の円筒が小宮山氏の運んだ台座だ

 近年の温暖化によって白馬大雪渓は縮小傾向にあり、雪解けのスピードも増して、雪渓上のルートは以前よりも格段に不安定になっているようだ。ここ数年、秋になって雪の量が減ると崩壊や転落の危険が高まるために、9月の紅葉の時期の前に通行禁止になっている。また、雪解けの具合に合わせてシーズン最盛期でもコース取りを変えることもあり、その間に短期の通行止めが行なわれることもある。雪渓の雪を使ったかき氷はともかく、山中の天然の冷蔵庫、天然のクーラーを体験したければ、事前のリサーチをお忘れなく。

雪渓は一般登山道よりもスピーディに進むことができ、雪渓が長い時期ほど行動時間は短くなる。しかし混んでいると速度は落ちる。時間に余裕を持った計画を立てたい(地図の参照元:YAMAP <a href="https://yamap.com/mountains/17" rel="noopener" target="_blank">YAMAPの当該箇所はこちら</a>)
雪渓は一般登山道よりもスピーディに進むことができ、雪渓が長い時期ほど行動時間は短くなる。しかし混んでいると速度は落ちる。時間に余裕を持った計画を立てたい(地図の参照元:YAMAP YAMAPの当該箇所はこちら

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次回、連載第8回は7/5(日)9:00公開予定です

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高橋庄太郎

たかはし・しょうたろう
山岳/アウトドアライター。1970年宮城県仙台市生まれ。高校の山岳部で山歩きを始め、出版社勤務後の2年間の無職時代には国内外のアウトドア旅へ。その後フリーランスのライターとなり、ウェブメディアや雑誌を中心に執筆活動を続けている。近年はイベントやテレビへの出演も多く、アウトドアギアのプロデュースも手掛けている。著書に『テント泊登山の基本テクニック』(山と渓谷社)、『トレッキング実践学』(ADDIX)、共著に『“無人地帯”の遊び方』(グラフィック社)など多数。

Instagram: @shotarotakahashi
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