2026.6.7
夏でも鳥肌が立つ“天然の冷蔵庫”は、中に入るのではなく、上を歩く! 日本一の雪上の道「白馬大雪渓」【山の名&珍プレイス 第7回】
記事が続きます
残念ながらちょっと無理です! 天然雪のかき氷
ところで、“夏に雪の上を歩く”という話になると、雪をカップなどにすくいとって、かき氷のようにして食べてみたいという人がいらっしゃるかもしれない。しかし、その楽しそうな願望は、雪渓上の現実を見ると、あっという間に打ち砕かれる。雪渓の雪というものはまったくもって清潔ではないからだ。真冬の新雪であれば真っ白で食べられなくもないが、秋に向かって時間が経つにつれて雪渓の上には周囲の山から土砂などが降り注ぎ、雪が融けるに従って次第に濃縮され、表面に集まっていくのである。

山歩きを始めたころ、僕もそんな願望を持って雪渓の上を歩いたことがある。だが、バックパックの中に入れておいた甘いコンデンスミルクを雪の上で出すこともなく、汚れた雪に意気消沈して、そのまま自宅に持ち帰ることになったのであった……。
さて、標高を上げていくと、いつしか雪渓の上の道も終わりになる。正確に言えば、雪に覆われていた一般登山道が表面に露出してくれば、歩行ルートをより安全なそちらに切り替える。一般登山道は雪の影響が少ない場所では、ただ「登山道」としか呼ばれないが、雪渓に沿うようにつけられている場所では、雪上のコースと区別するために「夏道」などと呼ばれている。


夏道に入る前に、雪渓コースの最上部では多くの登山者が先ほどまでシューズに取り付けていたアイゼンを取り外す。あとは白馬岳の山頂を目指していくだけだ。


白馬岳は高山植物の豊富さで知られ、それを目当てにしている登山者も多い。大雪渓の存在でもわかるように白馬岳の山域には冬季の大量の積雪によって地下水が多く、高山植物が繁茂する一因になっている。



山頂に大きな風景指示版が置かれているのも、大雪渓のおかげ
白馬大雪渓にまつわるエピソードでもっともおもしろいのは、山岳小説の大御所・新田次郎の史実をもとにした直木賞受賞の小説『強力伝』(新潮文庫)のモチーフになった、白馬岳山頂に置かれている風景指示盤の台座の石に関することだ。この台座の石は、富士山の強力(荷物を運ぶ人)であった小宮山正が1941年8月にひとりで担ぎ上げたものだが、その重量はなんと五十貫(約188kg)。白馬大雪渓は山麓から山頂までの最短ルートであり、傾斜や起伏が緩やかだったことから、多くの困難を乗り越えてなんとか成功を収めている。それにしてもひとりで188㎏とは、身軽なスタイルで雪渓上を歩いているだけで疲れてしまう多くの登山者には想像もつかないことに違いない。



近年の温暖化によって白馬大雪渓は縮小傾向にあり、雪解けのスピードも増して、雪渓上のルートは以前よりも格段に不安定になっているようだ。ここ数年、秋になって雪の量が減ると崩壊や転落の危険が高まるために、9月の紅葉の時期の前に通行禁止になっている。また、雪解けの具合に合わせてシーズン最盛期でもコース取りを変えることもあり、その間に短期の通行止めが行なわれることもある。雪渓の雪を使ったかき氷はともかく、山中の天然の冷蔵庫、天然のクーラーを体験したければ、事前のリサーチをお忘れなく。

記事が続きます
次回、連載第8回は7/5(日)9:00公開予定です
![[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント](https://yomitai.jp/wp-content/themes/yomitai/common/images/content-social-title.png?v2)















