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社会が不安定な2026年、占いや心理学で「星を見ること」はどんな意味を持つ?【鏡リュウジ×東畑開人『昼間のスターゲイザー』対談・前編】

発売後即重版が決まり、話題となっている占星術研究家・鏡リュウジさんと、臨床心理士・東畑開人さんの対談本『昼間のスターゲイザー 占いと心理学の対話』。この発売を記念し、6月16日に代官山蔦屋書店でお二人によるトークイベントが開催されました。その様子を2回に分けて公開します。
前編では、本イベントのテーマ「2026年の今、星を見ることを考える」に合わせ、個人を対象とする占いと心理学が社会を見ることについて話が及びました。

撮影/藤澤由加
構成/小沼理

心理学において悪口は肯定されるべきである

(写真左から)鏡リュウジさん、東畑開人さん、小沼理さん
(写真左から)鏡リュウジさん、東畑開人さん、小沼理さん

小沼 司会進行を担当するライターの小沼理です。『昼間のスターゲイザー』の対談構成を担当しました。今日もお2人のお話を色々と引き出せたらと思います。まずは鏡さんと東畑さんの出会いからお話ししていただけますか?

東畑 『昼間のスターゲイザー』でも話している通り、鏡さんは本当に「東京のお兄さん」なんですよ。僕が沖縄から東京に来て、『野の医者は笑う』を書いたあと、鏡さんがTwitterでこの本を絶賛してくれていて。それで僕から訪ねて行って仲良くなったんです。

  その後、東畑さんには僕が持っていた朝日カルチャーセンターの連続対談講座のお相手をお願いしました。当時は3ヶ月に一回は会っていましたね。で、終わると必ずといっていいほど飲みに行って。

東畑 最初の出会いが新宿だったし、朝日カルチャーセンターも新宿教室だった。僕の中で鏡さんは新宿の人なんです。
 僕が神戸でイベントをした時に来てくれたこともありますね。あの日も飲んだくれた記憶があります。

  僕がホテルまで送ってもらったんだよね。そもそも方向音痴なのと、酔っぱらいすぎていて。

東畑 「悪鏡わるかがみ」の話してもいいですか? それはやめときます?

  ちょっとなら。お手柔らかに(笑)。

東畑 じゃあちょっとだけ(笑)。今みなさんの目の前にいる鏡さんは、知的で優しい「白鏡」ですよね。けど、酔ってくると辛辣な男になってくるんです。

  あ、言っちゃった!

東畑 これはインテリあるあるです。僕もだけど、インテリは基本的に抑えきれない攻撃性を知性へと転化することで、なんとか社会に害をなさないように頑張っているものですから。お酒を飲むと、「悪東畑わるとうはた」・「悪鏡」になるんですね。

  「悪鏡」を出す時はいつも「今から出すよ」って、宣言してから言うんですね。
 でも、悪口が言えるのは本当に貴重なことですよ。それは安全な空間の中でしかできないから。この本の中の言葉で言うなら、「戸締まりができる人たち」とでないとできない。
 あと、東畑さんは悪口のポイントを的確にわかってくださる。悪口を言っているのに下手に慰められたり、通じてなかったりすること、あるじゃないですか。

東畑 そう。悪口ってさみしさと関係しているんですよね。
 この前、内田樹さんと対談する機会がありました。内田さんによると、武道の世界の飲み会では悪口を一切言わないそうです。
 武道の世界には師弟関係があって、その関係の中で師匠は弟子たちに無関心を貫く。全員を等価で扱うことで、弟子間の葛藤を引き起こさないようにしている。それで鍛えられているから、武道の人は悪口を言わないそうです。そうやって自我をなくしていくことが大事なんだという話をされていたんですよ。

  なんと……すごい。まさに修行ですね。

東畑 そう、修行。この話を聞いて、僕は自分の共同体である心理系の飲み会を思い出してたんです。悪口が盛り上がってるな、と(笑)。それは多分、心理学が自我を肯定するものだからだと思うんです。「わたし」をなくしていくのではなくて、「わたし」の醜いところも、美しいところも「そういうの、あるよね」と肯定していくのが心理学の根本です。そもそも心理療法って、悪口がたくさん語られる場所ですからね。それはさみしさを生きる世界とも言えます。わたしがいて、誰かが心の中にいる。その人たちにわかってもらえない、うまくつながれないとき、悪口を言う。

占いのアンビバレンスなさみしさ

東畑 心理学はさみしい世界ですが、鏡さんは占いなのにさみしいんですね。

  むしろ占いだからかもしれない。
 ここには2つの意味があります。1つは、この本の大きなテーマでもありますが、現代社会における占いの立ち位置のアンビバレンス。占いはすごく人気だけど、例えば今の政治家が占いによって大臣を決めていると言ったらスキャンダルになるじゃないですか。そこには表舞台に立てないというアンビバレンスなさみしさがあります。現代社会においては占いは真面目にやればやるほど、うさん臭くなっていく。
 もう1つは、占いは自我があるところでしか勝負できないということ。悩みあっての占いです。「わたし」をなくしていこうとすると、占いはいらなくなっちゃうんですよ。
 こんな話を思い出します。たしか久松真一だったと思うけど、高名な禅僧がユングとこんな話をしたそうです。ユング心理学では「セルフ」という心の全体性があって、その周りを「エゴ」という意識が、太陽を周回する地球のようにぐるぐる回っているというイメージを持つ。エゴは大きなセルフを目指して周回していくけど、絶対にそのセルフの全体を知ることはできない。同一化はできないんだとユングは説明していました。
 自我が自己を完全に知ることはできないと聞いたその禅僧は驚いた反応をしているんです。僕には禅とユング思想の比較なんてとてもできないけれど、少なくとも近代の心理学者であるユングには自我、エゴを手放すことはよろしくないと考えるわけでしょう。簡単に「無我の境地」なんて言わないわけです。
 ユング心理学はオカルティックに思われているけど、完全な神秘主義になりきれない。その理由はこの「セルフ」と「エゴ」が同一化できないことにあるんじゃないかな。占星術の世界でも、ホロスコープを読んでいる人間、タロットを読んでいる自分がいるわけですね。ホロスコープそのものにはなれないんですよ。

東畑 面白い。聖なるものになりきらないんですね。俗と聖の間、森と町の間にいる。

  魔女だ。

東畑 物語だと、魔女とか魔法使いの家って大体、森と町の間にありますよね。
 中井久夫によると、ユングやフロイトといった無意識を扱う有名な心理学者には、森と町の間のような周縁部に生まれた人が多いそうです。ロマン主義のファンタジックな森の思考と、科学的な町の思考。これがせめぎ合う場所で、無意識を扱う心理学者たちが生まれている。

  角野栄子の『魔女の宅急便』でも魔女は町がおわって森が始まるところに住んでいる。

東畑 この本もずっと「トワイライト」と言って、僕と鏡さんはずっと光と闇のあわいの話をしていますよね。今日ここにきている人たちもきっとそうなんじゃないですか。書店そのものがそうですよね。光と闇の間にあるのが本屋さん。

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東畑開人

臨床心理士・公認心理師。白金高輪カウンセリングルーム主宰。『野の医者は笑う 心の治療とは何か?』(文春文庫)、『心はどこへ消えた?』(文春文庫)、『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』(KADOKAWA)など著書多数。『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)は第19回大佛次郎論壇賞を、『カウンセリングとは何か 変化するということ』 (講談社現代新書)は新書大賞2026を受賞。

鏡リュウジ

占星術研究家・翻訳家。京都文教大学客員教授。著書に『占いはなぜ当たるのですか』(説話社)、『タロットの秘密』(講談社現代新書)、『タロットの美術史』(創元社)、『占星術の文化誌』、『鏡リュウジの占星術の教科書 I ~Ⅵ』(ともに原書房)、訳書に『魂のコード』(朝日新聞出版)、監訳に『世界史と西洋占星術』(柏書房)、『タロットと占術カードの世界』(原書房)など。占星術研究の第一人者として幅広く活動中。

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