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「あんたはいらない」 実の母にそう言われた娘が、14歳のときに義父にされたこと

新しい父「ショウ君」の登場

「小三のときに母から『お母さん大事な話があるんだけど……』って、両親が離婚したことを知らされました。『え、離婚したの?』って感じですよ。それで初めて離婚ということを意識しました。同時に、ああ、終わったとも思いましたね。それで小四か小五のとき、母の好きな男の人に会わされたんです。で、それから約一年後の私が小六に上がるときに、母が祖父母にその男性を紹介して、『子供もできてる』って再婚することになって……。私にいつの間にか新しい父ができちゃってたんです。ただ再婚について、母は元父には、私が中学に入るくらいまでは話してなかったみたいですね。だからその間は養育費が支払われてたんだと思います」

 新しい父は都心で美容関係の店を経営していた。再婚を機にそちらに引っ越す話になったが、そうなるとリカは小学校を転校しなければならない。できればいまの小学校に通い続けたいと彼女が主張したところ、母親は想像もしないことを口にした。

「そのとき母に『じゃあ私、あんたいらないから。おばあちゃんと暮らして』って言われたんです。もう、ええーって感じですよ。それで私は小六のときに祖父母と同居しました。母は時々やって来ましたけど、私としては自分は捨てられたっていう意識が強かった」

 祖父母が父母がわりとなった家で、昼間によく泣いていたというリカは、中学受験にも失敗してしまう。事前にA判定が出ていた上位二校に落ち、受かったのは三番目にすべり止めとして受けた、中高一貫校だけだったのだ。とはいえ、彼女が合格したのは特進クラスであり、学校自体も決して偏差値の低いところではない。

「母からは『見損なった。あんたなんか産まなきゃよかった』って言われました。それで強制的に母が住む家に連れ戻されて……。そのときはすでに弟が生まれてました。家には何回か会っただけの新しい父がいて、『お父さん?』みたいな。私は最初のうち、新しい父のことを下の名で“ショウ君”って呼んでたんですけど、あるとき母から、『もういい加減、パパと言いなさい』と言われ、仕方なくそうしてました」

 思春期の多感な時期に加え、慣れない新しい父親との生活、さらにそこに母親のヒステリーが加わった。

「うちの母は私が三、四歳のときから平気で私の顔とか頭とかを叩くんです。それで向こうが手を上げると、反射的にビクッとなって手で庇うようになりました。あと、私が言うことを聞かないからって、木にくくりつけられたこともあります」

 中学に入ってバドミントンを始めたリカは、中一の終わり頃にその練習で知り合った二十九歳の会社員と付き合うようになる。

「付き合うといっても、プラトニックな仲ですよ。ただ、それも母に携帯を見られてバレて、強制的に別れさせられました」
 
 私見としては、このときの母親の判断については、間違ったことだとは思わない。だが、当時のリカにとっては、自分のやりたいことを邪魔してくる母は、すべてにおいて敵意の対象となる、理不尽な存在だったのだろう。やがて中二になった彼女に対し、より強大で逃げ場のない理不尽が襲いかかってくる。

「それで、十四のときに義理の父に手を出されて、リスカ(リストカット)してて、バレて家族会議になって……」

「手を出され」。目の前のリカはあくまでもさらっと言った。その言葉の持つ意味の重さはわかっていたが、あえて彼女の話の流れを遮らないよう無言で聞き続ける。リカが家族にバレたのはリスカだけ、だ。

「家族会議では、『うちはいい家系なんで、恥ずかしいことしないで』って怒られて、それでも私はバファリンとかをひたすら飲んで、オーバードーズ(薬物の過剰摂取)で意識を失ったりとかしてたんですね。だけど世間体を気にする母は、『救急車なんて呼んでまわりにどんな顔すんのよ』って、呼ぼうとしないで、そのまま寝かされてました」

 そこまでを語ると、リカは細い指先に挟んだ煙草を、灰皿にトントントンと繰り返し当てた。それを見た私は、彼女がみずから胸にくさびを打ち込む姿を思い描く。

義父からの性虐待、リストカット……リカの生活はさらに波乱を抱えていく。第7回に続く
「歌舞伎町で働く理系女子大生リカ」前回はこちら。

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新刊紹介

小野一光

おの・いっこう
1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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