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篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」

温存?切除? 病院はどこ? 決めるのは私

 がんの手術を行うような大病院は忙しい。外科医との面談で「えーーー、どっちにしましょう、先生、私、どうしたらいいんですか?」などとやっていると、「では考えておいてください。はい次の方」と後回しにされ、結果、手術が遅くなってしまうからだ。
 参考までに、といささか憂鬱な事柄が告げられた。
 温存手術の場合、ケースによっては乳房が大きく変形し、こんなはずではなかったのにと失望する患者さんもいるとのこと。「篠田さんの場合ですと、乳頭出血があったので、たとえ温存でも中心部は全部取ることになるでしょう」
 つまり乳輪と乳首は残せないだろうということ。
「再発の可能性からしても、私としては切除手術をお勧めしますね」
 冷静な口調で先生が言う。
 平らな胸に一本の傷痕。幾度か目にした画像を思い出す。自分の右胸がそうなる。
 歳を考えれば、特に悲観することでもないが、自分の体の外見がここを境に大きく変わる、ということがにわかには受け入れがたい。
「まあ、いざとなれば再建という手もありますし」
 六十二歳の乳房再建? 
 あり得ない、あり得ない。
 
 というわけで、宿題を二つ抱えて乳腺クリニックを後にする。
 一つはどこの病院で手術するかの四択。もう一つは全摘か温存かの二択。
 さてどうするか。帰りの車の中で夫と二人思案する。
 一見、気弱そうな夫は、実は数年前、頸椎けいついヘルニアを患った折、テニスの試合で勝ちたい、という動機から、ためらいもなく難度の高い手術を受け、術前術後にせっせと体力作りに励んでいたくらいの体育会系ポジティブ気質で必要以上に悲観的になることはない。そのうえ問題発生、課題形成、解決策立案、実行、のプロセスが根っからしみついた元公務員でもある。そのあたりはどうも似たもの夫婦のようだ。
 データが無い段階であれこれ考えてもしかたがない。まずは情報収集ということになった。浸潤がんでもありぐずぐずしている暇はない。
 その後は……「粛々淡々と行けばよろしい」とまたもや元公務員らしい発言。

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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