よみタイ

猫背改善計画! 98歳の祖母とデューク更家から美しい姿勢を学びます。

 昔の本で申し訳ないが古本屋でDVDブックを購入。YouTubeチャンネルの動画も参考に、歩き方革命を開始する。
 大切なことは、一本の線の上を歩くこと。おへその辺りから自分の前に一本の線を思い描き、その上を背筋と膝を伸ばした綺麗な姿勢でゆっくりと歩く。はじめの一歩を踏み出すときはヘソを持ち上げるような感覚で、足はかかとからしっかりと着地させること。基本歩行に慣れてきたら、かかと立ちとつま先立ちを組み合わせて足首のエクササイズするのも効果的だという。
 腕の振り方も重要である。子供の頃、運動会の行進などで「腕を大きく前後に振りましょう」と先生から習ったが、腕は後ろに「引く」感じで振るのが正しいのだという。肘をお腹より前に出さないように腕を後ろに引くと、背筋と肩甲骨がピンと伸びて身体のバランスが良くなる。
 すごい、ちょっと意識をして歩いてみるだけで全然違う。歩いているだけで気持ちよくて軽く昇天しそうになる瞬間がある。本当にある。ああ、俺は今までなんてだらしない歩き方をしていたんだ。デューク、あんた、本当にすげえ人だったんだな。我々日本人はあんたのことを見くびり過ぎていたようだ。
 

本を見ながら歩き方革命。
本を見ながら歩き方革命。

 そしていよいよメインディッシュだ。デューク更家の代名詞でもあるクネクネウォーキング、その名も「トルソーウォーキング」に挑戦だ。昔は心底馬鹿にしていたこの動きも、今となっては科学的根拠に基づいた理想的な歩き方に思えてくる。私はもうデュークの虜なのさ。
 一歩踏み出すときに「シュン!」と声を出すのが効果的ですという一文には一抹の不安を覚えたものの、デュークの言葉を信じ、バレリーナのように両手を上げ、体をくねらせながら「シュンシュン」と言いながら部屋の中を歩く、歩く、ひたすら歩く。なんだろう、この充実感。クラブに初めて行ったとき、可愛い女の子に勧められ、慣れないパラパラを踊ってみたら、やけに楽しかったあの夜のことを思い出す。恥を捨てること、それも健康に生きる上で大事なことなのかもしれない。
 結論。デュークのウォーキングは健康に良いかどうかはわからんが、やらないよりはやった方が毎日が楽しくなる。

爪のトルソーウォーキング。
爪のトルソーウォーキング。

 余談になるが、私の祖母は現在九十八歳でこのままいくと百歳の大台を迎えるであろう超健康体である。最近はさすがにガタがきているが、九十五歳まではいっさい腰も曲がらず、近所のうどん屋で働いていた剛の人である。昔、婆ちゃんに健康の秘訣を聞いてみたら「とにかく歩くことやなぁ、ヘソの辺りに力を入れて、自分の足で地面を耕すつもりで畑仕事のつもりで真っすぐ歩くだけで毎日健康や」と言っていた。
 
 デュークに祖母。私の周りには日々のウォーキングで健康を実証してきた人が二人もいる。そんな二人に倣って、私は今日も背筋をピンと伸ばし、姿勢良く街を歩くのだ。

 あと、パチンコや競馬で負けた帰り道、ガールズバーで生意気な年下の女の子にこっぴどく叱られた帰り道にトルソーウォーキングをすると、沈んだ心がちょっとだけ楽になるのでおススメである。

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は6月9日(日)配信予定です。お楽しみに!

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
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(撮影/江森丈晃)

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