よみタイ

2年間の〝おじさん美容生活〟で辿り着いたひとつの結論。「毎日の化粧水とシートマスクだけで人生バラ色だ!」

ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。作家としての夢をかなえた爪切男が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったく興味がなかったのに、ひょんなことから美容と健康に目覚め……。中年男性が本気で挑む美容と健康にまつわるエッセイ連載です。

前回は、体重がリバウンドしてしまい改めて日々のルーティンを検証し対策を検討した著者。
今回は、美容と健康生活のきっかけとなった化粧水を使い始めてはや2年。どんな変化を遂げてきたのかを検証してみます。

(イラスト/山田参助)

第47回 化粧水とシートマスクへの過剰な愛情

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

 我慢の限界だ。もう言わせてもらう。
 2年余りかけて、おじさんなりに美容と健康に良いとされるものをアレコレ試して辿り着いた答え、それは「洗顔後の化粧水とシートマスクだけで充分なんじゃないか」という身もふたもない結論である。
 美容初心者の分際で何を偉そうにと言われたらそれまでの話だが、数年前までブヨブヨでドロドロの油ギッシュ肌だった私が、プルプルでモチモチの健康な肌に生まれ変われたのは、ひとえに化粧水とシートマスクのおかげなのだ。

数年前の私とキティちゃん。
数年前の私とキティちゃん。
最新刊を手に微笑む最近の私。
最新刊を手に微笑む最近の私。

 美容と健康に良いとされるものなら何でも見境なく飛びついてきたわけだが、「ちゃんと継続しています」と胸を張って言えるのは、洗顔後の化粧水とシートマスクぐらいなもんである。試しては飽きてのサボり症な私でごめんなさい。それもおじさんの〝リアル〟ということでひとつ許してはもらえないだろうか。
 そんな私は、前回書いた通り、体重が絶賛リバウンド中の身なのだが、そんな危機的状況でもモチモチ肌をなんとか死守できているのは、就寝前の化粧水とシートマスクの力に他ならない。

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 そう、全ての始まりは、この連載のタイトルにもなっている「午前三時の化粧水」だった。
 近所の子供たちに太っちょゴブリンと揶揄され馬鹿にされていた私は、一念発起し、少しだけマシなおじさんになることを夢見て〝おじさん美容生活〟をスタートさせた。
 何から手をつけていいかわからないが、基本は化粧水なんでしょうねと、軽い気持ちで手にしたのが「豆乳イソフラボン化粧水」だった。化粧水に関する知識など皆無の私は、自分の大好物である豆腐に多く含まれる栄養素だからという理由で「豆乳イソフラボン化粧水」を購入した。
〝ちょっといい匂いのする水だな〟ぐらいの感覚で顔につけた化粧水。それが私の生活を大きく変えてしまった。
 翌朝、起き抜けの肌を触ったときの感動は今も忘れることができない。自分の体の中にこんなに柔らかい部分がまだ残されていたんだなと、何度もほっぺをつねったのを覚えている。
 あの日、深夜のドン・キホーテの化粧品売り場から、美容革命の狼煙は上がったのだ。

 化粧水とセットで始めたシートマスク。こんなに面倒なことを毎日続けられるわけがないと半ば諦めていたはずなのに、今ではこれをしないと気持ち悪くなってしまうぐらいに、私の生活に欠かせない必需品となったシートマスク。仕事に疲れてクタクタの日も、朝まで飲み明かしてグデングデンの日も、お腹の調子がゴロゴロな日も、同棲中の恋人と喧嘩をしてプンプンの日も、シートマスクをせずに寝る日は一度とてなかった。
 顔に付けたマスクから、肌を通じて体の奥深くまで化粧水が浸透していく不思議な感覚。その日あった嫌なことの全てをリセットし、新しい自分に生まれ変わって明日からまた頑張ろうという勇気が湧いてくる。私にとってのシートマスクとはそんな魔法のアイテムなのだ。
 

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「あなたって自分の不幸を笑い話にしてるけど、それって辛いことに強いんじゃなくて、辛いって思わないように誤魔化してきただけだよね」
 同棲中の恋人から何度も言われている言葉である。そうなんです。ままならないことの全てを「ま、いいか」で済ませてきたのが私の人生なんです。
 貧乏な家に生を受け、厳格な親父から受けた過剰なスパルタ教育、好きな女の子から「君の笑顔って虫の裏側に似ているね」と言われた青春時代、そして売れない作家として駄文を書き続けている現在。
 それら全てを「ま、いいか」と一笑に付して自分を誤魔化して生きてきた。だけど本当は声を出して泣きたかった。本当はもっと誰かに優しくしてほしかった。
 四十を過ぎ、心身共に無理がきかなくなってきた今こそ、自分で自分を癒すしか現代社会を生き残る術はない。私にとってのセルフケア、癒し、いや救いとなっているのが日々の化粧水とシートマスクなのである。まさかこの歳になって、生活の中に新しい習慣が生まれるなんて思いもしなかった。人生とは本当にままならない。
 

「豆乳イソフラボン化粧水」の次は、お酒の成分を用いた「菊正宗」の化粧水にハマった。お酒としてではなく化粧品としてハマった。我が家の男は代々お酒に溺れて痛い目に遭ってきたが、私の代にして、ようやくお酒との良い関係を築けたような気がする。
 恋人が使っている化粧水をちょくちょく拝借してはその効果を試すこともした。「メラノCC」シリーズの化粧水と「ハトムギ化粧水」が特にお気に入りだ。
 そして、滅多に使うことのない特別な化粧水もある。この連載の担当編集からいただいた「雪肌精」だ。あの羽生結弦がCMキャラクターを務めていることでも有名な製品である。化粧水をプレゼントしてもらうなんてことが生まれて初めてだったので、もったいなくてずっと使えない。本当に大切な日に使おうとは決めている。いわゆる勝負化粧水ってやつである。
 あと、毎日化粧水をつけている効果で、手のひらもスベスベになってきた。それが嬉しくて、会う人会う人と無意味に握手をしてしまうクセがついてしまった。おそらく政治家レベルの回数で握手をしている。
 化粧水に関することで目から鱗だったのは、化粧水は顔につけるだけではなく、首や脇など体全体にベタベタつける方がいいということだ。私のような面倒臭がりは、百均などで売っているスプレーボトルに化粧水を詰め替え、シュッシュッシュッと身体に振りかけるのがおススメです。
 いわゆる「THEぽっちゃり体型」の私。どうせなら、このまま身体中スベスベになって、かのミシュランマンのようなマシュマロボディになってやろうと目論んでいるところだ。

昔の私とミシュランマン、少しはマシになった今の私をミシュランマンに見て欲しい。
昔の私とミシュランマン、少しはマシになった今の私をミシュランマンに見て欲しい。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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