よみタイ

チョコザップに人生を変えられた男。彼が見つけた新しい幸せのカタチとは?

 それからというもの、週に2回の休息日を設け、それ以外の日はチョコザップへ足を運ぶようになった私。ジムに行く時間を作りたいがため、仕事や家事を早く終わらせてその時間を捻出しようとした結果、日々の生活リズムが安定するという嬉しい誤算も発生している。
 中でもお気に入りはセルフ脱毛コーナーで、専用のサングラスをかけている自分の姿が非常に滑稽で、脱毛というよりもサングラスをかけるために利用している。

サングラスをかけ、セルフ脱毛中の爪切男。個室でなければヤバすぎる写真である。
サングラスをかけ、セルフ脱毛中の爪切男。個室でなければヤバすぎる写真である。

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 チョコザップのいいところは、とにかくその静けさにある。インストラクターもいなければ、利用者同士が変にコミュニケーションを取ることもない静寂の時間。会話を交わさなくても、同じように運動をたしなむものとしての仲間意識、そして安心感が心地いい。
 
 実はこの感覚は以前にも経験したことがある。過去に私がmixiで運営していたコミュニティのオフ会と同じ雰囲気なのだ。
「今日も松屋で待ち合わせ」
 活動内容はその名の通りで、掲示板を使って、近隣に住む者同士が近所の松屋で待ち合わせをするだけ。たったそれだけ。ただし、「なれ合い禁止」という鉄の掟を決めていた。余計なおしゃべりはせず、軽い挨拶を交わすだけでサヨウナラ。出会い目的ではない。同じ松屋を利用する人の中に、名も知らぬ仲間がいると思うだけで、ちょっとした幸せを感じようぜ、という一風変わったコミュニティだった。
 
 大都会東京でのひとり暮らし、不意に人恋しくなったとき、見知らぬ人と同じ松屋の空気を吸っているだけで涙が出るほど嬉しかった。あのときと同じ安心感を、私はチョコザップの利用客から感じている。
 過剰な品行方正を求められ、監視社会、いや牢獄といってもいい現在のSNS社会はもう沢山だ。利用者同士が居心地のいい距離感を保ち、まさに楽園だった「いい時代のSNS」の雰囲気がチョコザップにはある。

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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