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MEGUMIに人生を救われたおじさんが『キレイはこれでつくれます』を読んで考えたこと

爪切男、四十にして惑う?
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。

前回はサウナと銭湯を長く愛していきた著者の、サウナ以外の新しい銭湯の楽しみ方について。
今回は大ヒット中のMEGUMIさんの美容本を熟読して考えたこと。

(イラスト/山田参助)

第26回 おじさんだけど「美容本」読んでもいいですか?

 ついにパンドラの箱を開けてしまった。

 四十代で美容に目覚めてからというもの、洗顔後の化粧水にシートマスクを欠かしたことは一日もない。紫外線対策として日焼け止めと日傘を携帯し、ルイボスティーと白湯と養命酒を愛飲し、その他にも美容にいいとされるものなら何でも見境なく手を出している毎日だ。パンドラの箱の中身など、とうの昔に空っぽになっているのかもしれない。だがそれでも、コレにだけは手を出すまいと誓っていた禁忌に、私はついに触れてしまったのだ。

 MEGUMIの『キレイはこれでつくれます』を買ってしまった。

 俳優、タレントであるMEGUMIによって書かれた美容本で、現在30万部を超える大ヒットを記録している噂のアレだ。
 どれだけ美容に興味があろうとも「美容本」だけは買ってなるものかと心に強く思っていた。それなのに、MEGUMIの本を書店で見かけるたび、手に取ってはレジに向かおうとする足を必死で止め、断腸の思いで本を棚に戻す、という行為を何度も何度も繰り返していた私。溢れる好奇心をいよいよ抑え切れなくなり、今回の購入に至ったというわけである。

 本に書かれている内容は、ごくごく当たり前のことを羅列してあるばかりで、わざわざ買って読むまでもない。何とも乱暴な解釈で申し訳ないが、私の中で「美容本」と「自己啓発本」はほぼそんなイメージだった。
 こと「美容本」や「スタイルブック」に関しては、著者の美しい写真も多数掲載されており、目で見る楽しさというのもあるだろうが、今の時代、有益な情報はネットで調べれば誰でも簡単に手に入る。自分で調べる努力もせず、他人のふんどしで楽に相撲を取ろうだなんてちょっと虫が良すぎやしないか。という具合の偏見を私はずっと持ち続けていた。
 文章を生業にしながらも読書量が極端に少なく、日頃から読む本と言えば、プロレスラーの自伝本か都市伝説に関する書籍本ばかり、そんな野良作家風情に言われたくはないだろうが。

 しかし、人生で初めて「美容本」を買うのは、人生で初めて「化粧水」を買ったときと同じぐらい恥ずかしかった。まったくこの世には、エロ本を買うことよりも恥ずかしいことが山ほどあるんだな。
 なぜこの本にそこまで惹かれたのか。それはこの本が美容研究家でもなく、セレブタレントでもなく、MEGUMIが書いたものだからである。

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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