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名古屋市長選挙の熱き戦いは河村たかし氏の当選で終わった。しかし大村愛知県知事との戦いは終わらない。

今の日本で有権者を団結させるのは、マスコミ批判なのかもしれない。

 当確の報を受けた河村氏は、舞台上でマイクを握り、今回の選挙戦をこう振り返った。

「市長の給料800万円を貫いて12年間で3億5000万円返した。こんなことやっとる人、日本中で河村さんぐらい! それがきっかけになって減税になって、日本で名古屋だけ! 毎年100億円ずつ減税になって、12年間で1200億減税になった。税収は下から言うと1200億。4年ぐらいで戻って、その上にもまた行ってますんで、2400億円税収が増えた! 日本でただ一つ! 日本で一番税金が安く、一番福祉の充実した街、ナ・ゴ・ヤ!」

 椅子に座って寒さに震えていた支援者たちはいつの間にか立ち上がり、ステージカーの前まで移動して歓喜の声を上げていた。私に椅子を譲ろうとしてくれた女性の支援者は、舞台上に上がってバケツを持っていた。河村氏がマイク越しにこう叫ぶ。

「ひとことだけ言っとくけど、名古屋のコロナ対策は日本一ですから! 1日500人(※200人の保健師と300人の応援)が『健康観察』(※感染源を特定するための積極的疫学調査)いうけど、しらみ潰しに電話しとるの! そういう地を這う努力もありまして、大都市では、名古屋は一番少ないと思いますよ! 人口割でコロナの感染者! 名古屋コロナ対策日本一!」

 そして4期目の目標についてはこう語った。

「一人の子も死なせないナゴヤ! そんなこと言う人、おらんですよ、日本で! 残念ながら実現されていないの! 本当に残念ながら! んだで、子どもの人生を応援する先生、ナゴヤには常勤スクールカウンセラーを全小学校に増やす! 1000人ぐらいを目指して、子どもを一人も死なせないナゴヤにしたら楽しいぞ〜子どもらも!」

 記者団から選挙戦の振り返りについて聞かれると、こう答えた。

「河村たかしさん対、自、公、民、共産だがや! 共産まで一緒になってやったんじゃにゃーか(やったんじゃないか)。いろんな組織もみんな。市民の皆さんは、ようわかっとってくれたと、こう思っとります。サンキューベリーマッチ!」

 今回の市長選挙では、大村秀章愛知県知事へのリコール署名偽造問題も争点になっていた。この点について記者から質問が飛ぶと、河村氏は明らかに不機嫌な表情で答えた。

「リコール署名は、あんなのねえ、私は全然関係ないし! それから、リコールをやっていく、いうことは大変重要なことだったんですよ。(「あいちトリエンナーレ」は)公共事業で、名古屋市、愛知県主催ですよ、これ! 天皇陛下の肖像をバーナーで燃やして足で踏んづける。それを隠して出すようなことをやっちゃいけない!」

 聴衆から「そうだー!」との野太い声が上がる。

「公共事業ですよ! 大村さんは自分の金で、自分が主催して自分が契約した画廊でやりなさいよ。公開質問状出しても答えない! 表現の自由だと言うんだったら、ちゃんと答えなさいよ! (私は)愛知県民の税金と名誉を守ったんですよ!」

 河村氏は、自身に疑いの目が向けられた不正署名事件への関与についても反論する。

「名簿を残しとこう、と河村さんは言ったと。河村さんは名簿を焼却しようと言わなかったんだ、最後まで。あれでわかる。偽造署名を発見した人が言っているんだから、(河村氏が)関与していなかったことが、よ〜くわかる。あんなの(不正署名を)もともと知っとったら、名簿残せなんて言うわけねーがや!」

 河村氏のボルテージにあわせて聴衆も興奮する。

「耳かっぽじって、よく聞け〜、マスコミは!」

 オラオラ系の男性が声を上げると、席を立ってステージカーの直前まで移動していたインスタライブの男性も声を上げた。

「印象操作だ! 印象操作!」

 今の日本で有権者を団結させるのは、マスコミ批判なのかもしれない。聴衆の間に妙な一体感が流れる。アメリカのトランプ支持者もこんな感じだったのかもしれない。そして河村氏は共同インタビューをこう締めくくった。

「やっぱり、言うことは言わないかん! おとなしくしとれ、っていうのはダメ!」

 当確の歓喜よりも、マスコミ批判で団結したような拍手が沸き起る。河村氏がマイクを司会者に渡して自転車にまたがると、支援者がバケツに入った氷水を河村氏にぶっかけた。

「バシャー!」

 サーカスのような自転車街宣。最終演説はライトアップされた名古屋城の前。そして、名古屋弁での「きさくな語り」と、誰もがまとまりやすいマスコミ批判。当選後の水かけ祭りまでがセットになり、河村劇場の選挙戦は終わった。

選挙戦の最終演説はいつもの自転車にライトアップされた名古屋城。河村劇場の舞台だ。(撮影/畠山理仁)
選挙戦の最終演説はいつもの自転車にライトアップされた名古屋城。河村劇場の舞台だ。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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