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名古屋市長選挙の熱き戦いは河村たかし氏の当選で終わった。しかし大村愛知県知事との戦いは終わらない。

選挙に勝つと氷水を頭からぶっかけてもらう「儀式」を続けてきた河村氏。今回も継続だ。(撮影/畠山理仁)
選挙に勝つと氷水を頭からぶっかけてもらう「儀式」を続けてきた河村氏。今回も継続だ。(撮影/畠山理仁)

開票率6%時点では河村22800、横井22800。接戦だ!

 「河村氏、当確」の一報は、投票箱が締まった20時にはもたらされなかった。名古屋市選挙管理委員会が最初の開票中間報告をするのは22時だ。いまは21時すぎ。開票は始まっていたが、その後、21時半を過ぎても動きはなかった。

 もちろん、地元メディアは出口調査を行っていた。中日新聞が20時03分に発表した「期日前投票の出口調査結果」では、河村氏ではなく横井氏が上回っていた。一方、「投票日の出口調査結果」では、河村氏が優勢だった。拮抗して票が読めないのか、どこのメディアもなかなか「当確」を打たない。開票所での票を双眼鏡でいち早くカウントした報告で情勢を判断しようとしているようだった。

 21時45分。河村事務所から出てきた青いスタッフジャンパーの男性が支援者たちに開票状況を触れ回った。

「(河村)2800、(横井)2800!」

 接戦だ。集まった支援者は河村氏の勝利を信じているためか、まったく動じない。勝つことはわかっている、という雰囲気だ。
 続報がもたらされたのはその5分後。

「開票率6%、(河村)22800、(横井)22800!」

 支援者たちは19時半から2時間以上、外で待っている。夜になって気温が下がり、風も強くなったことで高齢の支援者たちは寒さに震えていた。

「誰か死んでも不思議じゃないくらい寒いで」

 インスタライブを続ける若者が大声で言うと、高齢の支援者たちも「ほうだな。誰か死ぬかもしれんな」と同意する。なんなんだ、この一体感は。そうかと思えば、隣の女性が私にこんな声をかけてくる。

「ちょっとおしっこ行ってくるわ。あんた、ここ座っとってええよ」

 支援者たちはどこまでも自由だった。

 21時54分。ようやく一部のメディアが当確を打ち、会場に「当確!」「当確出た!」との声が響く。報道陣は、「キンタ◯」おじさんをフレームに入れないようにして支援者にカメラを向けた。

「バンザーイ! バンザーイ!」

 その声に吸い寄せられるように河村氏が事務所から外に出てきた。事務所前で立って待っていた支援者たちが河村氏の行く手を阻む。みんなスマホで河村氏の動画を撮っている。

「道を開けてくださーい」

 河村氏はもみくちゃになりながらステージカーに上がった。舞台の中心には28年前から選挙に使ってきた自転車が置かれている。自転車には河村氏直筆の「本人」のぼり。両脇にはビールケース。河村氏は選挙に勝つと、バケツに入れた氷水を支援者に頭からぶっかけてもらう「儀式」を続けてきたが、今回も恒例の儀式をやるという。

「あの水が本当に氷水かどうか確かめなぁいかんでよ!」

 インスタライブを続ける若者は、周りが静かになってもずっと大声で話し続けていた。

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新刊紹介

畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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