2021.11.10
ドライブで行ける人外魔境入り口=富士山五合目で、冬の背中にタッチ!
見上げた富士山の山頂は、人を寄せ付けないような荘厳な雰囲気
小春日和の穏やかな天気の日でしたが、到着した五合目の気温は7度。
空気はキンと冷え、車から外に出た僕はスウェットパーカ1枚しか着てこなかったことを後悔しました。
そこから見あげると、雪をかぶった富士山のいただきは、手が届きそうなほど近くに感じられます。でも実際には、まだ約1500メートルも上にあるのです。
そしてここより先の富士山は、シャレにならないほどの厳寒地帯になります。
なにしろ高山中の高山である富士山の山頂付近の気候は、“高山ツンドラ”。
最暖月でも平均気温が0~10度のツンドラ地帯、いわゆる北極圏と同じような気候が富士山頂には存在するわけです。
富士山の山開きシーズンは7月上旬から9月上旬までで、それ以外の季節は一般人向けの登山道が閉鎖されます。
もちろん本格的な登山家はオフシーズンでも登りますが、厳冬期の12月1日から3月31日までは、どんなベテランであっても登山計画書の提出が義務付けられているそうです。
それもそのはず。冬富士の山頂近くは雪が固まり、“ブルーアイス”と呼ばれるカチカチ山状態になっていて、アイゼンやピッケルの刃も刺さりにくいのだそうです。
しかも、年がら年中強風が吹き荒れているため、毎年何人も滑落して命を落としています。
恐ろしや、高山ツンドラ。
富士山は、五合目までは僕のような素人でも簡単に訪れることができる観光スポットですが、オフシーズンはここから先、一種の人外魔境となるのです。
それにしても人はなぜ、何かの境界を前にすると思想家になるのでしょうか。
冬から春、秋から冬へという季節の変わり目もそうですし、夕方から夜、夜から明け方への時間帯もそう。何かを感じ、物思いにふけりがちになります。
地の領域から天の領域への境界である富士山五合目で僕は、畏れに近いなんとも言えない気分に浸り……
……たかったのですが、本当のところ、僕がいる富士スバルライン五合目なんてただの観光名所。
大きな駐車場があり、お土産屋さん、レストハウス、レストラン、神社などが建ち並んでいます。
大型バスで乗りつけた大勢の中国人観光客(お帰りなさい!)や、林間学校の中学生がワイワイワイワイしていて、およそ厳粛なムードではありません。
夏場の富士登山はいつかチャレンジしたいと思っていますが、オフシーズンはここまでで十分。
冬の背中にタッチし、満足して帰路に着いたのでした。
連載初回「東京で生まれ東京に骨を埋めると思っていた僕が、デュアルライフを選んだ理由」はこちらから。
本連載は隔週更新です。次回は11/24(水)公開予定。どうぞお楽しみに!