そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。
2019.6.6
古本のススメ〜バブル前夜のバイブル『見栄講座』&『金魂巻』を読み返す
ベストセラーになったホイチョイ・プロダクションの書籍『見栄講座』。1983年出版だから、いま読むと一体どこの国の話だと思うようなことばかりだけど、それでも面白い。
あとがきにもしっかりと書かれているが、『見栄講座』は1980年にアメリカで大ヒットし、日本でも翌年に翻訳版が出版された『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック』のノリとテイストを拝借している。
『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック』の著者リサ・バーンバッグは、アイビーリーガーで上流階級出身者。彼女が自虐の意味を込めて、アメリカのWASPエリートのいかにも素敵な生活を、皮肉たっぷりに描写したおふざけ本だが、その重箱の隅をつつきまくる姿勢が受け、逆にプレッピーの教科書として人気となったのだ。
『見栄講座』も同じで、バブル前夜で浮き足立つ若者のために、見栄をはって本物のお金持ち、本物のいけてる人間のように見せるためにはどうすればいいのかを、大まじめ風に指南する内容。書かれているファッションから行動まで非常に的確なので、やはり当時の若者は教科書代わりにしていた。
例えば“見栄スキー”の項。
スキー場では門外漢のふりをしようと説く。年5回はスキーに来ていても、3年ぶりにくる顔をして、ロッジではヨットやサーフィンの話ばかりするべし。そうすれば失敗の8割はカバーできる……。
こんな感じだ。なるほど、やっぱりいま読んでも参考になるなあ。
“時代の徒花”的な本を古本で探して読むと面白い
『見栄講座』のヒットを受けて、翌1984年に渡辺和博が著した『金魂巻』もまた面白い。
女性アナウンサー、医者、イラストレーター、インテリア・デザイナーなどなど、当時の人気職業をあげ、それぞれの丸金、丸ビ、つまり同じ職種ながらイケてる金持ちと、ダサい貧乏人を描き分けて分析している。
エディターやフリーライターのパートもあるので久しぶりにじっくりと読み返してみたが、痛し痒しの絶妙な描写だらけ、参考になったりならなかったりでたいへん面白い。
驚くのは、各職業の丸金と丸ビの年収が書いてあるんだけど、今と大して変わっていないこと。いや、今よりも少し高い感じがする。さすがバブル前夜。
もしバブル最盛期に書かれていたら、もっと高めに設定されていたんだろうな。その後の日本の失われた何十年かを思うと、少し虚しくなる。
こういう“時代の徒花”的な本、リアルタイムで読まなければ意味がないかと思いきや、名作はいま読んでも面白いし、過ぎし世についていろいろと考えるきっかけになる。
古本って、堅い文芸書や専門書だけじゃなくて、こういう柔らかいものもまた楽しいもんですよ。
