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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

IQOSのお手入れをしていたら、唐突に蘇った’80年代の思い出

ここは集英社のWEBサイトなので、他社の話はなるべくさくっと済ませるけど、僕は1980年代中頃の中高生時代、当時、サブカル雑誌の雄とされていた『宝島』を愛読していた。
その呪縛から逃れられず、後に編集者になって宝島社へ入社することになるのだが、まあその話は置いといて。

ミドル’80s時代の素晴らしい『宝島』を隅から隅まで読んでいた僕が、特に好きだったのは、中森明夫による連載短編小説『東京トンガリキッズ』だった。
そこに描き出されていたのは、『宝島』を好んで読んでいるような、当時のサブカル少年少女を主人公にした青春群像だ。

気になる女の子と毎朝遭遇する地下鉄・銀座線に、ジム・ジャームッシュの世界を感じる高校生。
六本木インクスティックに降臨した憧れの戸川純の姿に興奮する女の子。
キーボードショップや森永LOVEで息つぎしながら現実を生きる、坂本龍一になりたい男子。
就職が決まった年のクリスマスイブ、武道館でRCサクセションを観て、「終わっちゃった」とブルーになる大学生。
新宿・丸井メンズ館のバーゲンを目指して夜中の3時に起きる、普通科高校でフツーをおベンキョする男の子。
卒業式に合わせて校舎の屋上でゲリラライブをぶちかます高校生……。

瑞々しい筆致で描き出されたキッズたちは、どれもこれも「ああ、これは俺のことだ」と思えるようなものだった。
この小説の影響で、当時のサブカル好きな若者はトンガリキッズと呼ばれたり、「あいつ、トンガってるね」などと表現されたりするようになった。

この小説を書いていた頃、中森明夫さんは20代の半ば。
中森さんといえば、1983年にあるコラムに書いた、“オタク”という表現が、その後一般化したことからもうかがえるように、時代を読んだ言葉選びのセンスに長けた人だった。
ちなみに『東京トンガリキッズ』の編集担当者は、当時の『宝島』誌の若手編集者で、現在は映画評論家・コラムニストとしてご活躍の町山智浩さんだったそうだ。
いま考えてみると、すごいタッグだったんだな。

まあとにかくそんなこんなで、僕も当時はトンガリキッズの一人であると自認していたのだ。

今では全然トンガっていないアラフィフ男性が見つけた「トンガリ綿球」

なんで唐突に、需要があるかどうかもわからないこんな懐かし話を書いているのかというと、今では全然トンガっていない(むしろどんどん丸みを帯びていく)50歳の僕が、最近使っているIQOSのお手入れ道具のパッケージを何気なく見ていたら、急に思い出してしまったからなのだ。

100円ショップのキャンドゥで売られているそれは、「電子タバコ専用クリーニングスティック トンガリ綿球」という商品名。
ト、トンガリめんきゅう? ト、トンガリキッズ⁉︎ ……と、やや強引にヒートアップしてしまった次第である。

IQOS愛用者が見れば、この綿棒の用途と使い勝手の良さは一発で理解してくれるはずなので、細かい説明は割愛。
僕が書きたかったのは、『東京トンガリキッズ』の懐かし話の方なのです。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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