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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

80年代風の懐かしきトロピカルなイラストは、今でも最高だという話

あなたは鈴木英人派? 永井博派? はたまた、わたせせいぞう派だろうか?
我々グリズリー世代にとっては、キラキラした青春時代を彷彿とさせる懐かしきイラストだ。

永井博の代表作は『A LONG VACATION』をはじめとする大瀧詠一のレコードジャケット。
鈴木英人は山下達郎の『FOR YOU』ジャケットや雑誌『FM STATION』の表紙。
わたせせいぞうはなんといっても、漫画『ハートカクテル』だろう。

1970年代後半から1980年代にかけて全盛期を迎える、こうしたトロピカルでクリアーでアダルトチックな風景や人物、車のイラスト。
でも実は、それらが巷にあふれて盛り上がっていたころ、個人的にはまったく良いと思っていなかった。

憎しみと愛が入り交じった目で世間を罵っていた10代の頃、悲しみを知って目を背けたくって町を彷徨い歩いていた20代の頃、「こんな素敵な世界あるもんか。虚構だ。クソだ。敵だ」と思っていたのだ。

ガロ・宝島系シンパだった僕は、イラストレーターといえば湯村輝彦(テリー・ジョンスン)やスージー甘金、みうらじゅんに根本敬、蛭子能収など、爽やかさのかけらもない、エログロナンセンスヘタウマ系が大好きだった。

でもね……、人の趣味嗜好って変わるものだ。

その良さをやっと理解できたのは、すっかり大人になってからだった

中高生の頃はパンクやニューウェーブばっかり、大学生になってから多少趣味の幅は広がったとはいえ、依然インディーズ系の音楽が好みの中心だったので、好きな世界観はそちらに偏りがちだった。

でも、30歳を過ぎた頃からジャズやソウルにAOR、それに日本の往年のシティポップの良さなんかまでわかってきて、遅ればせながらそれらに伴うビジュアルもまた“ええなあ”と思うようになった。
『ハートカクテル』なんて、40歳過ぎてからブックオフで全巻探したからね。
全部100円コーナーで売っていたから、たいそう安く揃えられた。

今になって考えれば、永井博は湯村輝彦の弟子だったわけだし、初期わたせせいぞうはつげ義春の影響を受けているという説もあるし、実はガロ・宝島系とも底ではつながっていたのだ。
敵じゃなかったのね。すみません。

今さらながらの話のようだけど、鈴木英人、永井博、わたせせいぞうの描くイラストは、エバーグリーンでエバーブルーでエヴァーサンシャインで本当に素敵だ。
僕に遅れてきた“青春in ’80s”の輝きをもたらしてくれるような気がして、ときどき本棚から画集や漫画を出して眺めては、人知れず静かに癒されているのです。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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