よみタイ

佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

知る人ぞ知るシティポップの超名盤、佐藤博の「awakening」限定LPを買ってみた

そもそもCDは持っていて何十回、何百回と聴いてきたし、アップルミュージックやスポティファイなどのサブスクリプションでも配信されているコンテンツだ。
本来であれば、買う必要などまったくなかったのである。
でも4000円出して買ってしまった。
佐藤博「awakening」のビニールLPのことだ。

こういう音楽マニアおじさんの弱みにつけこみ、狙い撃ちするような商品はいかがなものかと思う。まるで悪徳商法じゃないか。
そんな怒りに震えながら取り出した限定版の青くクリアーなレコード盤は非常に美しく、ターンテーブル上でくるくる回る姿を見ているとため息が出た。
そして、名匠の呼び声高いアメリカのオーディオマスタリングエンジニア、バーニー・グランドマンによって再カッティングされたという音は、ちょっと涙ぐんでしまうほど素晴らしかった。

本能に従い買って本当に良かった。
悪徳商法とか言ってすみません。

真夏の気怠さが醸し出されるレコードは、蒼き日々の思い出に浸りながら聴くのが最高

はっぴいえんどの解散後、細野晴臣と鈴木茂が松任谷正隆、林立夫を引き入れて新しく結成した音楽ユニット、キャラメル・ママは、すぐにティン・パン・アレーと改名し、腕利きピアニストを加入させる。それが佐藤博だ。
佐藤はバンド活動と並行しながら次々にソロ作品を発表。同時に山下達郎や大瀧詠一、細野晴臣(ソロ)の作品にも参加するようになる。

細野からオファーされたイエロー・マジック・オーケストラへの参加を断り、1979年に渡米。現地の名だたるプレーヤーと交流しながらさらに腕を磨き、多重録音を駆使するマルチサウンドクリエイターへと成長したのちの1982年に発表した4thアルバムが、この「awakening」だ。

すべての曲のプログラミングと鍵盤およびギターの演奏、女性ゲストのウェンディ・マシューズが歌う曲以外はボーカルもみずからとった、佐藤博の集大成のようなアルバムであり、シティポップの金字塔となった傑作「awakening」。
波音のSEからはじまり、ほとんどの曲はゆったりしたグルーヴを刻む、心地よいミディアムスロウのテンポ。真夏のアダルトな気怠さが醸し出されるレコードである。

発売された80年代当時、海へと向かう車のカセットデッキで、助手席にサーファーの彼女でも乗せながら聴いたら最高だったんだろうな。
でも50歳を過ぎたいま、それも真冬へと向かう季節に、実際には体験しなかった淡き夢のような夏の思い出に浸りながら聴くのもオツなものである。

佐藤博は2012年、自宅のスタジオで倒れて亡くなっているのを発見された。
できればもっと長生きしてほしかったが、こんなにおっさん泣かせの超傑作を残しているのだから、本当に素晴らしい人生だったのではないかと思う。
「awakening」の限定盤LP、実に良い買い物をした。

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

週間ランキング 今読まれているホットな記事