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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

一人、部屋でこっそり楽しむ“変な楽器”は、ヒーリング効果抜群!?

生活にある程度ゆとりのあるグリズリー世代の男性は、意外な趣味を持っている人も多いことだろう。
今日は僕自身の、非常に小規模で密やかな趣味について触れてみたいと思う。
いいかい、触れるぜ?

僕は“変な楽器”好きなのです。

モンドミュージックというジャンルがある。
従来、軽視あるいは無視されてきた、映画のBGMのような匿名性の高い音楽に一部のマニアが価値を見出し、その珍奇さやエキゾチシズムを楽しむ趣味だ。
僕が好きなのは、“モンド楽器”とでも呼べばいいのだろうか。
順にご紹介しよう。

まずはKORGのカオシレーター。2007年に発売されたポケットサイズのシンセサイザーだ。
つまみで音色やピッチを選択し、パッドを適当にいじくると、エレクトロな曲らしきものが簡単にできてしまう夢のような楽器。
ポケットに入れて持ち運べ、イヤホンにつなぐこともできるので、いつでもどこでも無限に触って遊べる。
実機のカオシレーターは既に製造を終了しているが、現在は同コンセプトのものがアプリ化されているので、興味のある方は検索してみてください。

アンテナと2つの怪しいつまみがついた赤い箱はテルミンだ。
ご存知の方も多いと思うが、テルミンとは1919年にロシアで発明された世界初の電子楽器。静電気を利用し、演奏者がアンテナに手を近づけたり離したりすると、電子音の高低が変化する。
無音階で自在に上下する音は、古いホラー映画やSF映画の効果音にも使われてきた。
古くはレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ、我々グリズリー世代になじみのミュージシャンだとジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンやボアダムス、コーネリアスなども演奏にたびたび用いてきたテルミン。
もちろんプロが使うものはかなり高価だが、あれは確か2000年代初頭、石橋楽器が突然、このミニテルミンを製造販売し、僕を含む変態系楽器マニアを狂喜させた。
なかなかいい音が出るので、僕は今も絶賛愛用中だ。

電子音楽系ではもうひとつ。
ごく最近コレクションに追加したのが、明和電機の名機・オタマトーンである。
その名の通りおたまじゃくしのような形状のオタマトーンは、細長いネック状の部分がパッドになっていて、指で押さえるとゴム球の中に仕込まれたスピーカーから電子音が鳴る仕組み。
片方の手でゴム球の切れ目をパクパクさせると、音量が変化してビブラートをかけられる。
ちなみに僕のオタマトーンは「招き猫」バージョン。他にもいろいろなデザインのものがリリースされている。
オタマトーンは慣れると簡単な曲を弾くことができる。なかなか楽しくて、暇があるとずっと触ってしまう中毒性の高い危険な楽器である。

電子ガジェット系からアコースティック系まで。変な楽器への興味は尽きない

さて、前半はガジェット系の電子楽器を紹介したので、後半はアナログ・アコースティック系を3点紹介しよう。

まずは口琴。
金属部分を唇に当て、指で弾くと口内で音が反響し、ビヨ〜ンビヨ〜ンという摩訶不思議な音を発する。古くからヨーロッパ〜アジア全域に広がった民族楽器で、僕が持っているのは金属製だが、竹製のものもある。
日本ではアイヌ民族が使っていたことで知られる。アイヌの竹製口琴は「ムックリ」と呼ばれる。
僕の金属製口琴は、ベトナム・モン族のもの。ベトナム語では「ダンモイ」 モン族語では「ンチャン」と呼ばれているそうだ。

次はカズー。
もともとはアフリカの民族楽器で、口にくわえて声を発すると、上部に取り付けられたフィルムが振動し、おどけたような間が抜けたような音が鳴る。
1960〜70年代にフォークミュージシャンがハーモニカとともによく用い、近年ではゆずや東京事変、山崎まさよしの楽曲でも使われているカズー。
僕はRCサクセションの初期代表曲「僕の好きな先生」のカズーが強く印象に残っていて、カズーをくわえると、ついこの曲のイントロを演奏してしまう。
カズーは歌うように発した声がそのまま楽器音になるので、世界一簡単に演奏できる楽器と言ってもいいのではないだろうか。

そして最後はトライアングルだ。
これは、そんじょそこらのトライアングルとはちょっと違う。
ある雑誌の仕事で、日本でもっとも注目されているトライアングル作家、北山靖議さんに取材したとき、その音色に感銘を受けた。
取材後、僕は北山氏の自宅兼工房を訪ね、その場で一本購入したのだ。
北山トライアングルは、一般的なトライアングルの「チ〜ン」という澄んだ音ではなく、「ジョリ〜ン」とでも表現すべき、なんとも幻想的な音が響く。
一本の金属を曲げ、納得のいく音に到達するまでひたすら叩きを入れる職人技で作られているので、値段はかなり高い。
でもその音を聞いたら誰もが納得できるのではないかと思う。お聞かせできないのが残念だ。

とまあ、僕のモンド楽器コレクションから6点を紹介したが、いずれも誰かと合奏するようなものではないし、そもそも人に聞かせるものでもない。
誰もいない部屋で、一人こっそり楽しむ趣味なのだ。
暗いし、家人からはいつも妙な目で見られるが、うまいこと言うなら、いずれもヒーリング効果は抜群。

楽器というものは元来、そういう目的があるものだという気がする。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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