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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

小沢健二の新譜をヘビロテしていたらダッフルコートが着たくなるベタ展開

以前、ある本の編集仕事で安西水丸さん(故人)と北原照久さんの対談を仕切ったことがある。
テーマは“トラッドファッションについて”。
北原さんは、トラッドな服は基本的なところが変わらないから、長く着られるのが良いと言った。
そして安西さんがとても印象に残ることを語った。

20代の頃、アメリカの知人宅へ遊びにいった安西さん。
一晩泊まって朝方帰ろうとしたとき、知人は「駅まで送るよ」といったん外に出てきたけど「ちょっと待って。少し寒いな」と家に戻り、ダッフルコートを羽織って出てきた。
ただそれだけなのに、なぜかすごくかっこよく見えたという。

おしゃれではなく、“少し寒いからダッフルコートを着る”という感覚が、ファッションの真髄だと安西さんは言いたかったようだが、その感覚はすごくよくわかる気がした。

僕は今年、ずいぶん長いことほったらかしていたダッフルコートを引っ張り出した。
色あせない銘品、グローバーオールのダッフルコートだ。
少し寒い日に着てみようと思っている。

13年ぶりにリリースした新譜のフルアルバムは、年齢なりの良さが詰まっていた

含蓄のある二人の話の後でしょうもないのだが、僕が急にダッフルコートを引っ張り出したのにはミーハーな理由がある。
最近、小沢健二の13年ぶりとなるフルアルバム「So kakkoii 宇宙」をヘビロテしているからだ。

我々グリズリー世代にとって、ダッフルコートといえば小沢健二。
でも2014年、小沢健二が最終回間近の「笑っていいとも!」に、16年ぶりとなるテレビ出演をしたときは少し驚き、時の流れをしみじみ感じたものだ。
あの王子様が、ベテラン郵便局員のような雰囲気のおじさんになっていた。

しかしその後、音楽活動を再開してメディアにもたびたび登場するようになると、こちらが見慣れてきたのか、あちらが調子を取り戻してきたのかわからないが、昔のオザケンらしいオザケンになってきてホッとした。

2017年に発売した19年ぶりのニューシングル「流動体について」も、同年、SEKAI NO OWARIとコラボした曲「フクロウの声が聞こえる」もすごく良かった。
昔から小沢健二の曲は歌詞がいい。
より難解かつ観念的になっているが、聴き込んで自分なりの解釈を得られると本当にグッとくる。

僕よりひとつ年上で51歳のオザケン。
もう僕らは旅に出る理由を考えている場合でもなければ、鼻水を手でこすりながらウキウキ通りを行ったり来たりする歳でもない。

でもやっぱり、今でもオザケンの曲を聴くとダッフルコートを着たくなるのです。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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