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バンドT~Tシャツはアイデンティティとアトリビュートを示すメディア

グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう―― そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

まったく我ながら、何を言ってるの? というタイトルだ。

好きなアーティストのライブに行くと、必ずバンドTシャツを購入する。何度も観ているアーティストだと、すでに持っているTシャツとデザインはほとんど変わらなかったりするのだが、その時に回っているツアーの地名がバックプリントされているので、やはり買わずにはいられない。

話は突然変わる。
一昨年の春、家族と一緒に富士サファリパークに行った日のことだった。

クレープの行列に並んでいてふと後ろを見ると、「THE BUSINESS」のロゴTシャツを着た、同世代に見える短髪のおじさんが子どもと並んでいた。
THE BUSINESSは、僕の好きなイギリスのバンド。1970年代から長年活動していたオイ!というジャンルの草分け的存在だが、数ヶ月前にボーカルが死去し、活動を休止したばかりだった。

話しかけずにはいられなかった。
「ミッキー、亡くなっちゃいましたね」。

バンドTシャツとは同好の士の心をつなぐもの

一瞬、驚いた顔をした後、彼は口元を緩め「ええ。残念ですよね」と答えた。
その後、二言三言交わしたが、それぞれのクレープが焼きあがったので別れた。

アメリカ人みたいに、たまたま居合わせた人とスッと会話を始めるスマートさに憧れることもあるけど、普段の自分にはとてもできない。
でも、思いがけぬところで出会ったオイ!仲間に話しかけるのは、抵抗がなかった。

いささか古い考え方かもしれないが、ファッションとは自分の属性(アトリビュート)と自己同一性(アイデンティティ)を示すものだと思っている。
特に仲間内の間での流行が口コミで広がるストリートスタイルでは、そういった側面が強い。

何が言いたいのかというと、だからバンドTシャツはいいよねってことだ。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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