そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。
2019.6.19
現役ハードコアパンクファンが語るライブハウスのお作法
いまでもよくハードコアパンクのライブを観にいく。新宿のロフトやアンチノックといった老舗のライブハウスが多い。特に自分が高校生だった1980年代から活動を続けているバンドのライブを観るのは最高に楽しい。
演奏する側も観る側も、十分に歳をとっている。レジェンドを見にくる若い客も少しはいるけど、全体の平均年齢が明らかに50歳前後だろうなという日もある。
このままいくと、ハードコア系のライブハウスはやがて、おじいちゃんおばあちゃんの憩いの場となる日が来るだろう。それもまた、楽しからずや。
でも演奏されるのはあの頃と変わらないバキバキのハードコア。そして客のノリもかつてと変わらない。フロア前方はモッシュの嵐、老骨に鞭打ってダイブやクラウドサーフをバシバシ決めてくる人もいる。
昔と少し違うのは、みんな年季がはいっているから、暴れ方がすごく上手だということ。モッシュでぶつかり合う人も、ステージ上から飛んでくる人も、それを受け止める人も手馴れたもので、誰も怪我したりはしない。
念のために解説しておくと、“モッシュ”というのはステージに近いフロアでおこなわれるおしくらまんじゅう&ぶつかり合い。
“ダイブ”はステージに上がってから密集した人の頭上に飛び込んでいくこと。
“クラウドサーフ”は密集した人の上を転がっていくことだ。
ダイブの後にそのままクラウドサーフすることも多いけど、フロア後方から他人の肩を使って密集した人の上によじのぼっていく方法もある。
モッシュ&ダイブ&クラウドサーフは地下の怪しいライブハウスでやるのが最高
昔は小さなライブハウスの中だけでしか見られなかったこれらの作法は、いまやすっかりメジャーになり、夏フェスなどの会場でもおこなわれるようになった。1990年代のメロコアブームの頃から、ライブハウスのノリが大きな会場に持ち出されるようになったのだ。
サークルモッシュという、ライブハウスにはなかった作法も生まれた。特定の曲になると客が輪をつくるように並んで走って円形の空間をつくり、サビがくるとそこへみんなで飛び込んでモッシュするのだ。
サークルモッシュは21世紀に入ってからの流行で、最初に見たときは驚いた。でも、そのあまりに能天気な運動会的ノリは、おじさんの求めているものとちょっと違うんだよな〜とも思った。
モッシュはやっぱり、地下の怪しい小さなライブハウスが似合うのだよ。
ライブハウスを最高に楽しむためには、フロアでの位置どりも重要だ。どんなバンドでも、前方のモッシュで暴れるのは客全体の2〜3割程度なので、後ろの方だったら落ち着いて見ることができる。
それでは面白くないからモッシュに突っ込んでいくとしても、前に行けば行くほど人がぎっしり詰まっていてあまり身動きできない。
それよりもモッシュピットの後方、少し空間に余裕のあるあたりが一番激しくて楽しい。猛烈な体当たりを繰り返してくる活きのよすぎるヤツの顔を見ると、いい感じのおじさんだったりするのも面白い。
まあ、自分もその一人なんだけど。
モッシュの中にずっといると汗だくになるし、酸欠状態になることもある。だから僕も最近は後ろの方で観ることが多くなった。でも、こんなことではいかんとも思ってしまう。
この夏、僕は50歳になるので、記念に一発、華麗なダイブでも決めてみようかなと思っている。
みんなきっと優しく受け止めてくれるだろう。
