2021.3.28
致死率ほぼ100%! イヌだけじゃない、ネコもヒトも感染する「狂犬病」感染の恐怖
動物まみれのめまぐるしくも愉快な日常とは……!?
生き物の知られざる生態についても、自筆のイラストとともに分かりやすく解説します。
動物の専門家によるお仕事&科学エッセイです。
前回は、動物番組の監修をしていて出会った、動物の生態をめぐる「ガセネタ」を紹介しました。
今回は、動物由来の感染症についてのお話です。
動物の「毒」よりも「感染症」が怖いワケ
新型コロナウイルスの影響で、この1年ほどワクチンや予防接種に関する情報に接する機会が増えた方、関心が高まった方も多いのではないでしょうか。
実は、動物に関わる人間の“職業あるある”のひとつに、予防接種を受け慣れているということがあります。
一般の人より、動物由来の感染症にかかる可能性が高いためです。
私も、上野動物園の職員だった時は、破傷風や狂犬病など、いくつかのワクチン接種が義務づけられていました。
動物園退職後も、頻度はそのワクチンの種類によりますが、必要に応じてA型肝炎などの予防接種を受けています。生態調査で海外を訪れる際に、特定のワクチンを接種していないと入国できない国もありました。
動物との接触で命に関わる事態というと、多くの方が「毒」を心配されると思います。
確かに、毒は危険です。
実際、私も調査業務の一環でボルネオ島を訪れた際、スズメバチ類に刺されて九死に一生を得た経験をしています。
しかし、私は毒以上に、病気(感染症)の方が恐ろしいと思っています。
なぜなら自分が媒介者となって他の人や動物にうつしてしまう可能性があるからです。
狂犬病には有効な治療法がない
動物由来の感染症には、日本では北海道のキタキツネが主な感染源となるエキノコックス症や、蚊に刺されることによって感染するデング熱など、様々あります。
致死率が高いという意味で、私が特に恐れているのは、狂犬病です。
狂犬病は、狂犬病ウイルスを保有する動物に咬まれたり、引っ掻かれたりしてできた傷口からのウイルスが侵入することで感染します。
発症した際の致死率はほぼ100パーセント。発症してしまうと有効な治療法がありません。
日本では、1950年に狂犬病予防法が施行されてからは、飼い犬の登録や予防注射が義務化され、野犬の捕獲も進み、1956年以降は国内で感染した例は見つかっていません。
しかし2020年には、フィリピン滞在中、イヌに咬まれた男性が帰国後に発病して死亡するという事例がありました。
近年でも国内に狂犬病ウイルスは持ち込まれているのです。