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『鬼滅の刃』「蛇の呼吸」の真実を生物専門家が解説。最強の呼吸法を持つ動物は!?

世界初の「どうぶつ科学コミュニケーター」として、講演活動やフィールドワーク、執筆活動など幅広く活動中の大渕希郷さん(通称・ぶっちー)。
動物まみれのめまぐるしくも愉快な日常とは……!?  
生き物の知られざる生態についても、自筆のイラストとともに分かりやすく解説します。
動物の専門家によるお仕事&科学エッセイです。

前回は、生物界では珍しい、メスから求愛する動物の生態について解説しました。
今回は、人気漫画の技としても注目を集めるヘビの呼吸についてのお話です。

鬼滅人気で関心高まるヘビの呼吸法

言わずと知れた大人気漫画『鬼滅の刃』。
剣士たちが、それぞれ特殊な呼吸法を身につけることによって身体能力を高め、鬼と戦うストーリーです。
この呼吸法のひとつに「蛇の呼吸」なるものがあり、私のもとにも
ぶっちー先生、ヘビってどんな風に呼吸するんですか?
といった質問が来るようになりました。

専門学校でも両生爬虫類の授業を担当している。こちらはちょうど「蛇の呼吸」などを教えた時の板書。(撮影/大渕希郷)
専門学校でも両生爬虫類の授業を担当している。こちらはちょうど「蛇の呼吸」などを教えた時の板書。(撮影/大渕希郷)

そこで今回は、生物科学の視点から実際のヘビの呼吸について解説したいと思います。
「全中集」まではしなくてよいので、お気軽にお読みください。

巨大な獲物を飲み込んでも窒息しない理由は?

まず、呼吸のかなめである肺の構造。

ヘビも人間と同様に左右2つの肺があります。
しかし、ヘビの場合、左右の肺のサイズが大きく異なり、左肺さはいは萎縮して痕跡程度になっています。
一方、右肺うはいは、細長い体に収まるように細長く発達し、頭側から「気管肺」「気管支肺」「嚢状肺のうじょうはい」の3部に分けられます。
一口にヘビといっても世界に3,848種(2021年2月23日現在)が知られていますから、その長さは種類にもよりますが、特に肺が長いウミヘビの場合、嚢状肺が尻尾のあたりまできています

大渕家のボールニシキヘビ、タマオ。教育関連のお仕事の際は、筆者にいつも同伴。(撮影/大渕希郷)
大渕家のボールニシキヘビ、タマオ。教育関連のお仕事の際は、筆者にいつも同伴。(撮影/大渕希郷)

私たち人間をはじめとする哺乳類は横隔膜を動かすことによって肺が伸縮し、呼吸ができますが、ヘビをはじめとする爬虫類には横隔膜がありません。
そのため、爬虫類(カメを除く)は肋骨を開いたり閉じたりすることで肺に空気を送り込めるようになっています。

ただし、ヘビは、肋骨を動かして呼吸をするのが困難な場合もあります。
獲物を丸呑みしたときです。

皆さんもご存知かと思いますが、ヘビは大きな獲物を丸呑みする動物です。
大型のニシキヘビ類では、人間はもちろん、ウシ、シカ、ワニなどなど呑み込んだ事例があります。

巨大な獲物を呑み込むと、気管が圧迫されて肋骨を動かすことによる呼吸が困難になることがあります。
そういう時は、肺末部の「嚢状肺」を収縮・拡張させることで換気を行うことができる仕組みになっているのです。

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新刊紹介

大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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