2019.6.2
長崎FW玉田圭司の現在の哲学。「勝つために必要なのは、うまいヤツがまわりをカバーしてチームのために全力を尽くすこと」
長崎を語るとき、主語は“自分”ではなく“チーム”か“チームメイト”になる
ベテランになればなるほど、大きな変化を遠ざけがちだ。
決してネガティブな意味ではなく、それはむしろ常道。成功と失敗を重ねながら己のスタイルにたどり着いており、変化よりも深化を求めているとなればうなずける。ケガや年齢に合わせた柔軟性の変化ならまだしも、「こうありたい」と自らの理想が先にある強硬性の変化に向かうベテランがいると目を引いてしまう。
強硬性の変化とは、つまり自分が望む姿も変わっていくということ。未完成な部分を感じさせ、それが年齢不相応にも見えてくる。「若さっていいな」が、まったく過去形じゃない。それが39歳、玉田圭司の「現在」である――。
緑が映える山々と、青が光る大村湾の海。
自然あふれる諫早の環境で、彼は黙々とピッチの外を走って汗を流していた。アルビレックス新潟戦(5月11日)で「ちょっと痛めたところがあって」後半早々に途中交代したため、全体トレーニングに合流せずに別調整となっていた。
契約満了で名古屋グランパスを退団して、今季からJ2のV・ファーレン長崎に完全移籍した。新潟戦までリーグ戦すべての試合に先発出場。疲労も溜まっているのかと思いきや、首を横に振って口元を緩める。
「すぐに(チームに)戻れると思うんで大丈夫ですよ。V・ファーレンのためにしっかり働かなきゃならないんで」
アラフォーにして、表情も言葉もさわやか極まりない。降り注ぐ太陽の日射しが、玉田にはよく似合う。
その新潟戦で、らしくないシーンがあった。
前半7分だった。玉田はトップの位置から降りてパスを引き出して、左サイドの香川勇気に展開。そこからクロスが送られて、ゴール前でフリーとなっていた2トップの相棒・呉屋大翔がヘディングで決めて先制した。
チャンスメークは、らしいプレーだ。しかしその後が、ちょっと意外だった。呉屋に抱きつき、「よくやったな」とばかりに背中をポンと叩く。その前には呉屋のガッツポーズより前に、両手を挙げて喜びを表現していた。
これまでのクールなイメージは消え、ホットな感情がのぞいた。そう感想を伝えると、照れ笑いを浮かべた。
「それまで2試合勝てていなくて、あの1点はチームにとって本当に大きかったんです。J1に昇格するためにはやっぱり勝ちを重ねていかなきゃいけないし、成績というものが何より大事になってくるので」
ストライカーはどこか独善的な雰囲気が漂うもの。そうでなければ、ゴールの結果で評価される仕事は務まらない。玉田もつい最近まではそちらに近かったはず。だが今はまわりを活かす役割にフォーカスを当てて意欲的に取り組んでいる。それも自らが望んで。長崎を語るときの彼は、自分を主語にしない。チームか、チームメイトばかりだ。
相棒の呉屋は25歳。玉田とはひと回り以上年齢が違う。
練習では後輩に対して思ったことを、ズバズバと言うそうだ。
「気がついたことは、ハッキリ言うようにしていますよ。それはアイツだけじゃないですけど。ハアッ?って思っているヤツも、中にはいるかもしれない(笑)。でも嫌われたって構わないし、うるさいオッサンだなと思われたって全然いい。ひと言が(心に)響いてくれたり、ムカついてでも残ってくれたら、それだけでいい」
自分の考えをぶつけてくる後輩もいるという。それなら大歓迎だ。活気なくして、チーム力は上がっていかない。そのために「うるさいオッサン」を喜んで買って出る。
ワールドカップに2大会続けて出場して、J1での優勝経験もある。もっと威厳を誇示してもいいのに、キャリアの浅い若手に目線を合わせて彼らを引き上げようとする。独善的なストライカー気質をだいぶ薄めているような印象を受ける。