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二宮寿朗「1980年生まれ。戦い続けるアスリート」
不惑が間近に迫る年齢になりつつも、変わらず戦い続ける1980年生まれのアスリートたちに、スポーツライター二宮寿朗氏が迫るこの連載。
サッカーの中村憲剛選手、バスケットボールの田臥勇太選手、野球の館山昌平投手に続く、4人目のアスリートは、サッカーの大黒将志選手。
初回は、現在所属する栃木SCへの想い、2回目は、少年時代のエピソード、3回目は愛犬ラオウとの物語、そして最終回の今回は、“流浪のストライカー”の矜持について――

大黒将志がどのチームでも点を取れる秘密は、「自分も環境も疑わない」精神にあり!?

「どこで誰とやろうと、いいプレーするのが、いい選手」という言葉。大黒選手によく似合う。(撮影/熊谷貫)
「どこで誰とやろうと、いいプレーするのが、いい選手」という言葉。大黒選手によく似合う。(撮影/熊谷貫)

憧れのインザーギ“先生”のDVDは今も観ている

流浪のストライカーという表現がピタリと合う。
現在の栃木SCで12クラブ目。大黒将志は2006年にガンバ大阪からフランスのグルノーブルに渡ってから、長くても2シーズンという短いスパンで移籍を繰り返してきた。

「昔、ガンバのユース時代に監督の西村(昭宏)さんに言われたんです。『どこで誰とやろうと、いいプレーするのが、いい選手や』と」

どこで誰とやろうが、やるべきことはただ一つ。
味方のパスに合わせて動き出し、ゴールネットを揺らすだけだ。

多くのクラブを渡り歩いてきた中で「理論派・大黒」を確立できたのは、イタリア時代が深く関わっている。セリエAは憧れていた舞台。2006年8月末、グルノーブルからトリノへと渡った。移籍当初、指揮を執っていたのがのちに日本代表監督となるアルベルト・ザッケローニであった。

彼はこう振り返る。

「ザックさんは細かかったですね。『点が入ったら別にええやろ』とこっちが思っていても『その(攻撃の)やり方は違う』と認めてくれないんですよ。守備も攻撃も、両方細かく言ってくる。ちょっと衝撃的でしたね」

大黒は2シーズン在籍してリーグ戦の出場は10試合にとどまった。ゴールを挙げることはできなかった。こう記すと「不遇のイタリア時代」と思われがちだが、むしろ逆だ。イタリア語で“かんぬき”を意味するカテナチオの国で学ぶ守備戦術は、大黒の目には新鮮に映った。

「長身のストライカーが相手にいたら、センタリングのときにディフェンスはマンツーマンでつくとか、やらせない戦術がしっかりしている。たとえばサイドバックはセンターバックとの間にパスを通させないように内寄りにポジショニングを取って、センターバックのカバーを常に気にしておく、とか。

去年、ロシアワールドカップのコロンビア戦で長友(佑都)くんが(クロスに対して)ななめに走ってくる(フアン・)クアドラードについていったシーン覚えてます? オフサイドを取りにいくんじゃなくて、ついていって外に追い出した。彼は運動量とか言われますけど、インテルでずっとやってきた細かいポジショニングがしっかりしているから、あれができるんです」

イタリアの守備戦術を知ろうとする意味。
その水を漏らさない堅牢を、ストライカーがいかに突破しているかを研究するためには持っておかなければならない基本情報であったからだ。

極上の動き出しでゴールを量産するフィリッポ・インザーギは当時ACミランでプレーしていた。ベンチからずっとインザーギのプレーを目で追った。映像も、常にチェックした。

「フォワードの動き方なんて、誰も教えてくれない。だからインザーギは『先生』でしたね。映像だと映らないところに、ヒントがあったりする。だからピッチレベルで見ることができて、ものすごく勉強になりました。インザーギ先生だけじゃないですよ。ミランにいた(アルベルト・)ジラルディーノとか、ウディネーゼの(アントニオ・)ディナターレ、インテルの(エルナン・)クレスポ……。『こうやって飛び出していくんか』というのはあったし、今でもその人たちのDVDは見ていますよ」

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、スポーツ報知にて「週刊文蹴」(毎週金曜日)、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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