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【決勝は明日29日】高校バスケ史に残る名指導者、故・佐藤久夫から福岡第一・井手口孝や畠山俊樹に引き継がれる名将の意志

佐藤の後継として監督になった教え子・畠山俊樹

今年8月に仙台大明成の監督となった畠山俊樹。(写真提供:日本バスケットボール協会)
今年8月に仙台大明成の監督となった畠山俊樹。(写真提供:日本バスケットボール協会)

 佐藤の後継者として仙台大明成の監督となった畠山俊樹は、チームが初の日本一となった09年のウインターカップでキャプテンを務めたOBである。大学を卒業後にbjリーグでプレーし、佐藤が病床にあった時もB2の越谷アルファーズに所属していた。クラブとの契約があと1年残っていながら、恩師からの嘆願によって後任を引き受けた気骨ある男でもある。
 その畠山が、現在の高校バスケットボール界で「超えるべき相手」と設定している存在こそが福岡第一であり、井手口である。

「ウインターカップで初優勝した決勝の相手も福岡第一さんでしたし、運命を感じています。ここを乗り越えていかないといけないと思っているチームと言いますか、今は背中を追っている状態ですけど、いつか追い越せるようにならないといけないなと思っています」

 8月に監督となって5か月足らず。指導者としては、まだ「どうしたら子供たちに自分の想いをうまく伝えられるか?」と、試行錯誤の日々は続いているという。
 監督となって改めて気づかされたこと。それが、恩師である佐藤の懐の深さである。

「久夫先生は教育者だったので人間形成をすごく大事にされていて、僕自身、高校時代に成長させてもらいました。僕はまだバスケットボールのコーチでしかありませんけど、競技を通じて自分ももっと成長していきたいですし、久夫先生の想いというものも子供たちに伝えていければいいなって思っています」

 顔を上げると、高みにはいつだって先人がいる。それは、佐藤にとって能代工であり、井手口にとって仙台大明成であり、畠山にとって福岡第一なのである。
 明日29日の決勝で、19年以来、4年ぶりのウインターカップ制覇へとチームを導こうとしている井手口は声を震わせながら言葉を編んだ。

「ここまで高校バスケットボールが盛り上がっているのは久夫先生のおかげです。先生が命を懸けて取り組んでこられたことを、今は足元にも及ばないかもしれないですけど、引き継いでいきたいですね。いつか、久夫先生に『よくやったな』と言ってもらえるように」

 託される名将のバトン。
 連綿と受け継がれる意志こそが、高校バスケットボール界の豊かな土壌となっている。

(文中敬称略)

第17回スラムダンク奨学生に選ばれ来年からアメリカ留学が決まっている福岡第一のエース崎濱秀斗。怪我の影響で本調子ではないものの、27日の東山戦で大逆転の3ポイントを決めるなどスター性は充分。(写真提供:日本バスケットボール協会)
第17回スラムダンク奨学生に選ばれ来年からアメリカ留学が決まっている福岡第一のエース崎濱秀斗。怪我の影響で本調子ではないものの、27日の東山戦で大逆転の3ポイントを決めるなどスター性は充分。(写真提供:日本バスケットボール協会)
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田口元義

たぐち・げんき●1977年、福島県生まれ。元高校球児(3年間補欠)。雑誌編集者を経て2003年からフリーライターとして活動する。
著書に「負けてみろ。聖光学院と斎藤智也の高校野球」(秀和システム)などがある。

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