よみタイ

寿木けい「土を編む日々」
春夏秋冬、旬の食材は、新鮮で栄養たっぷり。
季節のものは、売り場でも目立つ場所に置かれ、手に入れやすい価格なのもうれしいところ。
Twitter「きょうの140字ごはん」、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』で、日々の献立に悩む人びとを救い続ける寿木けいさん。
食をめぐるエッセイと、簡単で美味しくできる野菜料理のレシピを紹介します。
自宅でのごはん作りを手軽に楽しむヒントがここに。

第11回 いたわるワンタン

 雲呑と書いてワンタンと読む。雲を呑むなんてつかみどころのない表記は、広東省を中心とする中国南部特有のものだそうだ。
 広い国土を北へ。上海では「生煎」(シェンジエン)と呼ばれる小さな肉まんのようなものを鉄鍋いっぱいに並べて焼く光景を見かける。これがおいしくて、滞在中は小腹がすくたびに何度も通った。体重増加にもてきめんに効く。

 その上海から高速鉄道で30分。運河の街・蘇州で、屋台をひとりで切り盛りする女の子を見た。
 体ほどもある大きな鍋いっぱいの湯がどんぶらこと煮立ったところに、太い物差しのようなものを突っ込んで、体をしならせてかき混ぜる。五回、六回と混ぜると、湯は大きなうねりとなり、そこに、小さな餃子のようなものを放り込んでいくと、入れた順に行儀よく連なって渦のなかを舞っている。
 餃子を入れてから混ぜるより、この方法のほうが皮がくっつかなくていい。以来私も、家で茹でるときは真似をしている。

 家で茹でるといっても、私は東京に住むまで皮で包まれたものなんて食べたこともなかった。母が餃子や焼売を手作りしてくれた記憶もなければ、みんなで外食に出かけた覚えもない。

 蒲田の「歓迎」(ホワイアン)で初めて羽根つき餃子というものを食べたのは、20代半ばのことだ。メニューには名物の焼き餃子だけでなく、水餃子から揚げ春巻き、小籠包までなんでもあって、それらを旺盛な食欲で平らげていく人々で店内は満席だった。都会というのは、こういう店を路地と路地の間に宝物のように隠し持っている。私が東京を好きな理由は、街のいたるところに折りたたまれた選択肢があるからだ。隅から隅まで歩き、ひだをめくって確かめてみたくなる。

 故郷・富山の名誉のためにいえば、おいしい米と豊富な魚介類に恵まれた土地では、小麦粉で肉を包む食事はあまり必要とされてこなかったのではないかと思う。

 いまや私は包むことに魅了されたひとりである。

 夏の終わりに食べたくなるのは、こんなワンタンだ。

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寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現在11万人以上。著書に『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』がある。
現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。

砺波周平

となみ・しゅうへい●写真家。1979年仙台生まれ北海道育ち。
北里大学獣医畜産学部卒業。大学在学中から、写真家の細川剛氏に師事。
2007年東京都八王子市に東京事務所を置く傍ら、八ヶ岳南麓(長野県諏訪郡富士見町)に古い家を見つけ自分たちで改装し、妻と三人の娘、犬、猫と移り住む。
写真を志して以来、一貫して日々の暮らしを撮り続ける。現在、作品が「暮しの手帖」の扉に使用されている。東京都と長野、山梨に拠点を持ち活動中。

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