よみタイ

寿木けい「土を編む日々」
春夏秋冬、旬の食材は、新鮮で栄養たっぷり。
季節のものは、売り場でも目立つ場所に置かれ、手に入れやすい価格なのもうれしいところ。
Twitter「きょうの140字ごはん」、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』で、日々の献立に悩む人びとを救い続ける寿木けいさん。
食をめぐるエッセイと、簡単で美味しくできる野菜料理のレシピを紹介します。
自宅でのごはん作りを手軽に楽しむヒントがここに。

第10回 永遠の火

 夏は天ぷら。
 この季節の野菜はどう食べても美味しい。それでもやっぱり、高温の油で一気に水分を蒸発させる天ぷらが、一番美味しい食べ方だと私は思う。
 家じゅうから揚げられそうなものを集めて、いっぺんに揚げてしまう。ゴーヤやオクラからはじめて、中盤はとうもろこしのかき揚げ、そして最後は子どもの手のひらほどもある鶏天。仁王立ち、炎に頬をさらして、迷いのない手つきでやっつけていく。
 
 以前名人と呼ばれるひとを取材したとき、
「ほら、音が変わるのが分かるでしょう」
 油の表面を見つめながらこうささやかれ、私も耳を澄ませてみた。その店では天ぷらの神様の邪魔をしないよう、食通たちが波打ったように静かに待つのだから、わずかな音の違いを聞き分けられるのかもしれないけれど、子どもたちが走り回る小さな家ではそうもいかない。

 その代わり私が分かるようになったのは、重さだ。箸で持ち上げたときにふっと軽くなる感覚で、水分が抜けてちょうどいい頃合いになったことが分かる。
 家で揚げたてを食べたいという食い意地があるから、何度も失敗しても諦めずに挑戦してきた。そうして学んだ天ぷらのコツは3つ。衣をよく冷やすこと。粉を練らないこと。揚げる前のセッティングを完璧に──揚げている途中でもたもたしないように、バット、ボウル、箸などは最初に定位置に置くことだ。

 そんな風にして自主練習をしながら、撮影用のレシピをさらっていたときのこと。ちょうど、天ぷらを盛る器を新調しようとしていた。そんなとき、あるサイトで見つけた大皿に私はひと目惚れをした。

 器の作り手は仲村まさひろさん。沖縄のどっしりした土のうえに白い模様を大胆に描いた八寸皿で、やちむんの中でもイッチンと呼ばれる種類であることを初めて知った。
 いったんお気に入りに登録し、どれどれと解説文へ進んだ。
 と、添えられた文章に胃を弾かれたような痛みを感じ、その日は明け方まで眠れなくなった。すごいものを読んでしまった。そう思った。

1 2 3 4

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現在11万人以上。著書に『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』がある。
現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。

砺波周平

となみ・しゅうへい●写真家。1979年仙台生まれ北海道育ち。
北里大学獣医畜産学部卒業。大学在学中から、写真家の細川剛氏に師事。
2007年東京都八王子市に東京事務所を置く傍ら、八ヶ岳南麓(長野県諏訪郡富士見町)に古い家を見つけ自分たちで改装し、妻と三人の娘、犬、猫と移り住む。
写真を志して以来、一貫して日々の暮らしを撮り続ける。現在、作品が「暮しの手帖」の扉に使用されている。東京都と長野、山梨に拠点を持ち活動中。

週間ランキング 今読まれているホットな記事