よみタイ

寿木けい「土を編む日々」
春夏秋冬、旬の食材は、新鮮で栄養たっぷり。
季節のものは、売り場でも目立つ場所に置かれ、手に入れやすい価格なのもうれしいところ。
Twitter「きょうの140字ごはん」、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』で、日々の献立に悩む人びとを救い続ける寿木けいさん。
幼い頃から現在に至るまでの食の記憶をめぐるエッセイと、簡単で美味しくできる野菜料理のレシピを紹介します。
自宅でのごはん作りを手軽に楽しむヒントがここに。

第6回 いも食うふたり

 三十歳を過ぎてから、大学の通信講座で料理と栄養学を学んだ。
 家族の胃袋を預かる主婦たるもの──時代を巻き戻したような、高らかな教科書の序文に面食らいつつも、私は夢中になった。通勤電車に教科書を持ち込み、週末はレポートに充てた。

 記述式の課題のなかで、忘れられない設問がある。
 献立にいも類を取り入れることの長所を挙げなさいという問題で、自分の解答は忘れてしまったのに、先生の添削は今でも覚えている。
〈いもは食卓に温かさを添えてくれます〉
 習字のお手本のように美しい赤ペンで、こうあった。
 答案に書き足さずにはいられなかった先生の、いもに寄せる全幅の信頼を、当時の私は少し距離を感じながら眺めた。

 いも類、なかでもじゃがいもの力を知るのは、それから数年経ってふたりの子どもに恵まれてからだ。
 肉じゃが、ポテサラ、コロッケ、煮っころがし──家庭料理の人気レシピには、じゃがいもを主役にした料理が並ぶ。当然の地位だ。一年中安定した価格で手に入って保存が効き、調理すればボリュームも出るとくれば、食卓には欠かせない。

 丸く張ったじゃがいもが袋にぎっしり詰まっているのを見ると、また会いましたねの挨拶と同時に腕が鳴る。思い浮かぶはフライドポテト、一択。

 作り方はこうだ。
 皮付きのじゃがいもを洗ってから、大きめのひと口大に切る。水気を拭いたら断面を下にしてフライパンに並べ、油をじゃがいもの背丈の半分注ぐ。皮付きのにんにくも一緒に放り込んでおく。
 ふたをしてから弱火にかける。油でじゃがいもを煮るようなイメージで、上半身にまで蒸気を行き渡らせるのだ。
 弱火ではじまった調理は、もどかしいほどゆっくり進む。この無音に耐え、いもに気付かれないようにじわじわと熱を加える。
 そのうち気泡とともにシュッシュと軽快な音がしてくる。五分ほど経ったらひっくり返し、ふたをしてさらに火を通す。尖ったものを刺してみてすーっと通れば、ふたをはずして強めの中火に切り替える。一気に水分を飛ばして外側をカリッと仕上げるのだ。
 引き上げたら熱いうちに塩を振る。親指、ひとさし指、中指でたっぷりつまんでピシリ。しっかり効かせれば、じゃがいもの輪郭が引き締まる。

 油はお古で構わない。皮付きのじゃがいもはやわじゃないから、二度目の揚げ物でもへこたれないのだ。ちょっと古い油があるから、じゃがいもでも揚げようか──逆の発想も大いにあり。だからどうか揚げ物を敬遠しないでと布教してまわりたいほど、揚げたてのおいしさは格別だ。

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寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現在11万人以上。著書に『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』がある。
現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。

砺波周平

となみ・しゅうへい●写真家。1979年仙台生まれ北海道育ち。
北里大学獣医畜産学部卒業。大学在学中から、写真家の細川剛氏に師事。
2007年東京都八王子市に東京事務所を置く傍ら、八ヶ岳南麓(長野県諏訪郡富士見町)に古い家を見つけ自分たちで改装し、妻と三人の娘、犬、猫と移り住む。
写真を志して以来、一貫して日々の暮らしを撮り続ける。現在、作品が「暮しの手帖」の扉に使用されている。東京都と長野、山梨に拠点を持ち活動中。

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