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「ブス、デブ」は小学生男子が誰にでも言う悪口だと思っていた 第4話 めくられない私

 ところが、いとこと行った回転寿司の一件でその認識はグラついた。
 私の知る男子は女子の美醜にかかわらず外見を非難し、運動が得意で体格も大きい女子には「怪力!」「ゴリラ」などのあだ名をつけ、「女の子」のイメージから遠い名称は女子にとって不名誉なはずだと知っており、反対に女子としても「怪力」などの言葉が中傷として使われていることは容易に理解し反撃をしていたが、「可愛い女子に優しくする男子」の登場はまだ先であった。
 しかし、「ブスに意地悪をする」の反対は「美人に優しくする」なのではないか?
 正確には、意地悪の一環としてブスという言葉を使うという認識が正しいのだが、当時の私にはそう解釈をするのは難しかった。
 そのため、経験上知っていることは「私はブスと言われ男子に意地悪をされる」であり、そうなるとなぜ祐実お姉ちゃんは優しくされるのか、の解釈は「祐実お姉ちゃんは可愛いからだ」となる。

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 しかも、子供の頃はクラスの男子は「子供だから」意地悪をするもので、先生を筆頭に大人はそういうことを注意する存在という認識であり、大人は子供を中傷しないしブスやデブを理由に意地悪もしない、なんなら子供を、子供が複数人いればより幼い子供を丁寧に可愛がる存在というイメージだったので、大人も子供の外見に左右されるのか?と思いショックを受けた。
 つまり、今この場で私は特に何も言葉をかけられず無視されているが、祐実お姉ちゃんがあれこれ気に掛けられているとする。そうなると私と祐実お姉ちゃんの違いは何か? スーパーのチラシでモデルを務めた祐実お姉ちゃんと、ブスとかデブとか言われ走り方をマネされる私との違いは……と、そこまで言わなくてもわかるのだ。
 私は可愛くないから気にかけられていない。つまりそれは、クラスの男子たちが言う「ブス」はあながちまちがいではない、ということになる。そしてそんな扱いの差をつけているのがクラスの男子ではなく、大人の男性である。
 大人になった今では、寿司屋の店員も単に目の前にいた子供だから声をかけていた、店員としての接客の一環、あまりにも年端のいかない子供だと意思疎通が困難と判断し祐実お姉ちゃんに話しかけていた、など理由は色々と考えられるが、小学3年生の私には、祐実お姉ちゃんはかわいく、私はブスである、と思うのに十分な出来事だった。

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次回は9月20日(水)公開予定です。

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冬野梅子

漫画家。2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。2022年7月に、派遣社員・菊池あみ子の生き地獄を描いた『まじめな会社員』(講談社)全4巻が完結。
最新刊は『スルーロマンス』(講談社)全5巻。

Twitter @umek3o

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