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鈴木涼美「○○○な女~オンナはそれを我慢している」

変わり者でいたい女〜若いうちから負けない戦い方はどうなの?って話

さて、私たち女が年々具体的な意味でも抽象的な意味でも戦闘能力を落としているのに反比例して、着々と戦闘能力をつけているのはかつて私たちの視界の非常に端の方でうろちょろしていた同級生男子たちで、金と権力をやや蓄積して選り好みできるようになった彼らが焦点を合わせるのは当然、肌でシャワーの水やら雨やら日々のしがらみやらをがっつり吸収している私たちではなく、シャワーも雨もおばさんたちの嫌味もそのツルツルの肌ではじき返しているピチピチ女子たちではある。

ただ長年の信頼関係や情はあるので、私たちも彼らの視界の非常に端の方を慎ましやかにうろちょろはしている。
視界の端の住人として、焦点ど真ん中の意中のピチピチと対面する機会もしばしばある。

スピーチのタイトル「私はちょっと変わってます」拝聴

昨年末、お金と権力と腹肉を蓄積した同い年の男2人と、私も含めたシャワー吸収型の妙齢の女3人で、ケールの鍋というよくわからないものを食していたところ、男の一人の携帯が鳴って、「ちょっと面白いかなって思ってる女の子なんだよね」と彼がいう、安室ちゃんがキャニュユーセレブレイトを歌った年に生まれた女の子が合流した。

脚が細くて綺麗で、聞けばSNSなどで活動するモデルという、もはやおばさんたちにはその職業すら理解の範疇外にある生物ではあったが、そもそもケール鍋の店を彼に紹介したのは彼女らしく、簡単にいうとよく分からないものを食べてよく分からない仕事をしつつ、大変高名な大学に通う、脚が綺麗なのは確かだが顔が可愛いかどうかは人によって判断が分かれそうな女の子だった。

肌のクオリティを失うのと引き換えに空前絶後の人当たりを手に入れている私たちは、大変気を使って彼女が退屈しないように会話をして、彼女のゼミの専攻やらモデル?の仕事やらについて質問をして、腹肉とお金はふんだんにある同級生男をヨイショして、ケール鍋でオシャレに胃を満たした。

偏差値のたかーい彼女の話はバカで若くて可愛い女子たちのそれとは一線を画していた。
というか、バカな女と一線を画しています!という話だった。

「就職活動ってみんなお揃いのスーツ着てるの、滑稽じゃないですか?」
赤っぽく髪の毛を染めた彼女は、35歳のおばさんのうちの一人の「卒業した後の予定は?」というたわいもない質問に対してそんなふうに切り返した。

「会社に入って必要に応じてTPOを考えるのはわかるんですけど、就活って素質とか経歴を見るものじゃないですか? 面接ならまだしも説明会までみんな判で押したような格好する必要ないと思うんですよね」

15年ほど前の己の就活がもはや歴史上の出来事になりつつある私たちは黙って彼女のスピーチを聞いた。

スピーチのタイトルは「私はちょっと変わってます」。

「だから、私、ソニアリキエルが好きで今は赤くしてるんですけど、その前は金髪でもうちょっと長くて、バッファロー66の時のクリスティーナリッチに近い髪型で、その髪にデニム穿いてインターンの説明会行ったんですよ。それでも受かったから。でもツイッターとかで、あの金髪、とかって書かれて。だから全然友達いないんですよ」

卒業後は、と質問したおばさんは、「院に進みます」とか「モデルでやっていきます」とかいう答えに用意していた「そうなんだー」と「頑張ってね」を飲み込んで、「面白いね」とロボットのように繰り返していた。それに同調して私たちも、特に面白くはない話に面白い子だねと遠い目をして呟いた

彼女は「学校の子も、一対一で話せば面白い子もいるんですけど、女の子が3人以上集まると、男の話と美容の話しかしないんですよ。美容の話っていっても、結局は恋愛のための美容の話なんですよ。それってつまんなくないですか?」と、仕事以外は男の話しかしないおばさん二人と、仕事でも男の話ばっかり書いているおばさん一人に満面の笑顔で同意を求め、平凡でつまらないおばさん三人はその「ちょっと変わった」女子に適当に同意しながら頷いた。

人はいつか嫌でも自分が期待したほど特別な何かでないことに気付く

私だって卒業後を質問したおばさんだって、かつては自分が何者かであるような期待と自分は何者でもないんじゃないかという不安まみれで若さと格闘し、人にわけのわからない自己主張を振りまいて承認欲求を満たしていたのだけど、なんというか、歴史上の出来事としての就活を思い起こすと、別に紺スーツを着て挑む必要も全くなかったが、紺スーツ以外を着て金髪で挑む必要も特になかったというか、すでにそこにいた5人で、新卒で入った会社にまだいるのはおばさんのうちの一人だけだし、要するに結構どうでもいい思い出の一つであって、まだ実績も自信もない学生が人に嫌われたり大きく間違ったりしないためには、人生であの時にしか着ないあの変なスーツも割と便利だった、くらいにしか思っていない

そうなってから聞くスーツによる自己主張のスピーチは結構虚しくて、私たちはケールで胃もたれしつつあった。

20代を味わい尽くしているうちに、誰しもが嫌でも、自分は自分が期待したほど特別な何かではないし、だからといって人生は絶望するほどつまらなくもない、なんていうことには気付くし、他人と自分は思っているより違わないし思っているより同じでもない、ということにも気付く。

そしてそういったことをもっとも気づかせてくれるのは男女のアレコレであって、だからこそ女が3人集まれば、10代だろうと30代だろうと、大体男の話をしているのだ。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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