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南和行「離婚さんいらっしゃい」
離婚をめぐるたくさんの悩みやさまざまな葛藤。そこには、夫婦、家族の数だけドラマがある。夫婦関係で悩んでいる人たちが、自分の人生を取り戻せるヒントが得られることを願って……大阪で弁護士として働く著者が架空でつづる離婚をめぐるセミノンフィクション。

夫婦別姓と事実婚を選ぶのは、ワガママなのか?

【ロロ子の場合】

出版社勤務のロロ子と大学教員の夫

ロロ子は、北関東の公立の女子校から、
都内の国立大の社会学部に現役で進学した。

メディア論のゼミで、
インターネット社会における世論形成をテーマに卒論を書き、
日本有数のお硬い経済誌を発行する出版社に就職した。

夫はロロ子が大学4年のときの大学院生で、
ゼミの先輩だった。

夫は学位取得後は都内の私立大学の教員のポストに就き、
テレビの情報番組でも、
たまに「有識者」としてメディア論を語り、
また若者目線でのメディア論の著作もいくつかある。

そんなロロ子と夫は、事実婚だ。
婚姻届は出していない。

婚姻届を出したら名字をどちらかに合わせないといけない。
ロロ子はそれができないと思ったから、
夫との話し合いで婚姻届は出さず、
夫婦別姓ができるように事実婚とした。

他人事とワタクシ事

夫婦の名字が同じになることについて、
ロロ子も他人事である限り、
それはまったく自然なことだと思ってきた。

結婚した女友達から、
聞き慣れない名字で年賀状が届くことも、
「そんなもんだ」と思っていた。

ただワタクシ事になるとそれは違った。

学生時代から恋人同士だった夫と、
社会人になりそろそろ一緒に住むという話になり、
それなら結婚して子供も持とうとなった。

そして、じゃぁ仕事はどうするという話になったとき、
ロロ子は、結婚して自分の名字が変わるということが、
自分の日常を大きく変えることにハタと気づいた。

ロロ子は、自分自身の仕事は、
文字通り名字も含めて自分の名前で積み上げた、
と自負していた。

結婚して名前を変えるということについて、
それまでの自分の人生を捨てることを迫られているような、
そんな感じがした。

大げさだろうか。

ロロ子はそのことを夫に話した。

fizkes/Shutterstock
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事実婚の選択

夫は「名字を変える」ということが、
大きな負担になるというロロ子の話を、
真面目な顔をしてフムフムと聞いた。

「やっぱり男だとそれにまったく気づかないんだ。ごめん」

と夫は言った。

夫はロロ子の話を聞いて初めて、
自分のほうが名字を変えることを想像したらしい。

結婚により名乗ることになった妻の名字で、
論文を発表し、執筆をし、メディアに出る。
過去に学会で奨励賞を取った博士論文を執筆したのは、
紛れもない自分自身であるにもかかわらず、
その執筆者として記載されている名前は、
もう自分自身の名前ではない……

そのことを思うと、
夫は「女だから」というだけの理由で、
ロロ子が名字を変えるということを、
「当たり前」だとはとても思えないと言った。

「ごめんね……」

夫はなぜか謝罪した。
男であるということの罪悪感からだろうか。

そこで夫とロロ子は、
夫婦別姓で事実婚という形を選んだ。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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