2021.10.27
1500億本中750億本捨てられる輸出用バナナ。その背景にある「不都合な真実」と「未来への希望」
日本では1年間に約600万トンもの食品ロスがあり、実は、そのうちの半数近くにあたる276万トンは、一般家庭から捨てられているのが現状です(2018年、農林水産省・環境省調べ)。
各家庭や個人で無理なくできる食品ロスの対策には、どのようなものがあるのでしょうか。
地球環境に優しく、食費の節約にもなる「捨てない食卓」の始め方を、食品ロス問題ジャーナリストの井出留美さんが食材ごとに解説します。
前回は、コロナ禍で消費量が減少している「牛乳」に着目しました。
今回のテーマ食材は、果物の中で年間消費量1位のバナナ。身近な果物であるということは、残念ながら、それだけ捨てられる機会も多いようで……。
毎年1500億本輸出されるうち、750億本が廃棄
昔は高級品だったバナナ。今はすっかり日常的に購入できるおなじみの果物になりました。
2004年以降、果物の中では、日本の年間消費量1位です(アジア太平洋資料センター:PARC『甘いバナナの苦い現実』資料集より)。総務省統計局「家計調査」では、世帯ごとの購入数量も安定して高くなっています。
身近な果物であるということは、残念ながら、それだけ捨てられる機会も多くなります。
たとえば、毎年参加希望者が殺到する人気のスポーツイベント「東京マラソン」ではランナーにバナナが配られるのですが、私がフードバンクの広報をしていた2012〜2014年にはこれが毎回大量に余っていました。足りなくなるのを防ぐ意味もあったと思います。
「弁当」の回で触れた「オリンピック会場での弁当大量廃棄問題」のように、イベントの際には、欠品防止のため余分に食品が集められ、そのまま廃棄されることが少なくありません。規模の大きなイベントほど、その廃棄量は多くなる傾向があります。
こうしたことを防ぐためには、主催者の責任を追及するだけでなく、「足りないより余る方がマシ」という私たち一人ひとりの常識や意識を変えていなかなくてはなりません。
さて、話をバナナに戻しますが、バナナは、果物の中でも捨てられやすい食品です。
バナナの加工食品を製造・販売しているBarnana(バーナナ)社の共同創業者、Matt Clifford(マット・クリフォード)氏は、「毎年1,500億本のバナナが輸出用として生産されるが、そのうちの半分にあたる750億本が廃棄されている」と語っています。
なぜ、こんなにも捨てられてしまうのでしょう?
その理由の一つは、この連載でもたびたび指摘している「規格外廃棄」の問題です。諸外国と比べても、日本人の感覚と日本の商習慣は、見た目の良さや統一感を重視する傾向があり、バナナに限らず、規格に合わないというだけで捨てられる食品がたくさんあります。
令和元(2019)年の財務省貿易統計によると、約104万5千トンのバナナが日本に輸入されています。その8割がフィリピン産です。
鶴見良行(つるみよしゆき)氏の名著『バナナと日本人』(岩波新書、1982年第一刷発行、2019年現在61刷)によれば、すでに1970年代に、日本向けバナナがフィリピンで大量に捨てられていました。
鶴見氏は次のように書いています。
『生産地では、1978年に35万トン、79年に6万トンが廃棄処分になった。これだけ大量のバナナが、こま切れになって捨てられたのである。企業はヤミで日本に流れて市況を圧迫しないよう、これを切って捨てた。まことに大きな社会的浪費、無駄だった。もっとも、無駄は早くからあった。もともと企業は、日本の不需要期には納品検査を厳しくして、多いときには五割もはねていたから、その分は、捨てられていたのである。』
私が社会人で2つめの大学院に通っていたとき、フィリピン人留学生から、かつてバナナチップの工場で働いていたときの経験談を聞いたことがあります。日本の2企業へ輸出していたそうですが、2社とも規格が異なるため、そこから外れたものが大量に無駄になってしまう。フィリピン国内で売るものの、売り切れず、最後は燃料にしていたと話していました。「バナナチップはよく燃える」のだそうです。