2019.3.29
肉バカがたどり着いた究極の焼肉「会長コース」とはいったい何なのか?(前編)
「会長コース」が行われる焼肉屋とは?
いくつかの焼肉屋で「会長コース」を行うことがあるが、圧倒的に回数が多いのは不動前の【焼肉しみず】だ。
その理由はしみずの仕入れ力に尽きる。
タンやハラミをはじめとした内臓類の仕入れは都内随一。
魚を扱う料理人は豊洲に自ら仕入れに行く方が多いと思うが、牛肉の場合は業者の配達が一般的だ。
ところがしみずでは、毎日業者まで内臓を取りに行き、信頼関係を積み重ねることで上物だけを売ってもらえるようになった。
内臓以外の正肉に関しても、都内でしみずほど上質な牛肉を仕入れているお店を他に知らない。
それでいて、値段が良心的なのだから、ついつい通ってしまうのだ。
ちなみに、しみずでは「会長コース」のために特別な牛肉を仕入れるわけではない。
隣のテーブルと肉質は全く一緒。
違うのはカットや味付け、そして焼き方だけ。
いきなりは出してもらえるものではないので、同じようなものを食べたいと思った方は、まずはしみずに何度か通ってみて欲しい。
ちなみにしみずは【焼ニシュラン2018】ではもちろん星3つを獲得している。
牛肉の王様サーロインで幕を開ける「会長コース」
焼肉の1番バッターにタン塩を選ぶ方は多いと思うが、「会長コース」では厚切りのステーキのようなサーロインから始まる。
味付けはシンプルに塩と胡椒のみ。
ステーキを焼く際のポイントとして、約30分から1時間前に冷蔵庫から牛肉を出して常温に戻しておく、と何度も耳にしている。
だが、必ずしもそうだとは思わない。
特にサーロインは常温に戻さずに、冷蔵庫から出した冷たい状態で焼くからこそ美味しい。
何故なら、サーロインは表面をカリッと、中心をレアに仕上げることで、食感のアクセントが生まれ、噛んだ瞬間、肉の旨味が爆発する。
ところがサーロインを常温に戻してしまうと、表面がカリッとする前に中心まで火が入り過ぎてしまう。
だからこそ、表面を焼いている間に中まで火が入り過ぎることを防ぐために、冷たい状態が望ましいのだ。
表面がカリッと仕上がった後は、火力の弱い位置でじっくりと中をレアに仕上げればいい。
一般的に市場に出回っているようなサーロインを食べると、脂の重たさで苦しくなることがあるが、しみずのサーロインは驚くほど脂があっさりとしていて、肉の旨味がしっかりと舌を包み込む。
それは、しみずの仕入れが兵庫県産但馬牛の血統にこだわっているから。
赤身に宿るコクと旨味、キレの良い上品な脂がとにかく素晴らしい。
ここまであっさりとしているからこそ、最初にサーロインを食べるのだ。
どこよりも分厚い黒タン
料理人が魚を仕入れる時は豊洲が最も大きな市場だが、牛肉の場合はそれが東京食肉市場(通称、芝浦)になる。
芝浦で屠畜される和牛の頭数は1日約200頭ちょっと。
これに対して、東京都の焼肉屋の数は2,000軒以上。
東京中の焼肉屋が和牛のタン(黒タン)を奪い合っているのだ。
しみずではこの貴重な黒タンが毎日何本も入荷する。
これは日々仕入れ先との信頼関係を築いた結果であり、仕入れ先は厳選してしみずに良質な黒タンを選んでくれているのだ。
しみずには厚切り上タンというメニューがある。
3センチくらいありそうな厚さの人気メニューだが、「会長コース」では、さらに2倍の厚さの特厚タンを用意してもらう。
強火の網の上で何度もひっくり返しながら焼くことで、焦がさずに中心までしっかりと熱を伝える。
中が冷たいタンほど美味しくないものはないので、入念に火の入り具合をチェック。
焼く前は冷えた状態なので硬いタンが、火を入れるにつれプルンプルンに脱力していく。
ここからまだ適度な弾力が付いたら食べ頃なのだが、これはトングを握る手が覚えた感覚と言える。
パーフェクトに火入れされたタンを切り分けると、断面は美しいピンク。
食感もプルプルとサクサクが共存した唯一無二のもの。
特厚タンは食べる向きも重要だ。
牛の舌も人間の舌と一緒で、下側は筋に近く、上側は筋肉になっているため、下側と上側の食感が全く違うことを味わってほしい。
薄切りでは決して味わえない境地がここにある。
会長コースはあまりに壮大で、1回で全容を伝えきれないので、後半については次回更新を楽しみにしていてほしい。