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コンテンツに対する基本フォームと応用問題を鮮やかに届けてくれる本──ニッポン放送“よっぴー”吉田尚記アナが読む『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』

「てれびのスキマ」がのぞいたマンガの世界――戸部田誠さんの新刊『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』が好評発売中です。
今回はその刊行を記念し、「マンガ大賞」の発起人であり、マンガを心から愛するニッポン放送アナウンサーの“よっぴー”こと吉田尚記さんに書評をいただきました。

大ヒットした漫画家に編集者の存在を否定する人はいない

「編集者」って仕事は、いるのか? 無責任なユーザーが、むげに口にしそうな言葉です。

「マンガ大賞」を言い出しっぺとして周囲に声をかけて始めさせていただいてから18年、今に至るまで実行委員の一人として運営しております。その間、紙の本で100万部を超えるものが次々出ていた時代から、売り上げが落ち込み、先行きが危惧された時代を経て、逆にデジタルで史上最大の売り上げを記録する現在まで、漫画業界は激動しています。その間、「マンガ大賞」に関わってくれている委員も選考員も、みなさん完全にノーギャラ、ボランティア、です。その理由はもちろん単純に漫画が好きだからと言うのもありますが、「漫画を読むのがより面白くなるから」なんですよね。

普通に漫画を読んでいるだけだと、作品そのものと作者の方しか意識することはないでしょう。実際には多くの方が関わって、漫画は読者のもとに届いています。その中でも、SNSでダイレクトに漫画を発表することが出来てしまう現代、「編集者」という存在は要らないのでは? という一般の意見が出てくることも少なくありません。

ただ、大ヒットした漫画家さんのほとんどに、編集者さんの存在を否定する人はいませんし、実際にお付き合いさせていただいた、ヒットした漫画の編集者さんで、その存在に意味がなかった、無能だったという例は一つもありません。漫画家さんと編集者さんたちとのやりとりのなかで、作品が生まれ届けられていることを実感して、漫画の読み味が倍増するのが、「マンガ大賞」を運営する喜びの一つです。

コンテンツ作りは普遍の手法に貫かれており、届ける方法と範囲が時代によって変わる

私はほんのちょっとのやりとりの中から、それを垣間見させていただくだけでしたが、この『王者の挑戦』には、「少年ジャンプ+」に関わった編集者さんたちの奮闘が克明に記されています。その奮闘の姿から伝わってくるのは、「コンテンツ作りは普遍の手法に貫かれており、届ける方法と範囲が時代によって変わる」という、コンテンツ業界に属するものが絶対に知っておくべきことです。

『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』の担当編集・林士平さんは、本書の中で言います。
「誰ひとり、何がヒットするかなんてわかってないんですよ。だからこそ、手数が大事である」と。言うには易いですが、この原則を実行するためには、泥臭い行動が必要です。作家との信頼は絶対の基本。

一方で、漫画業界が初めて直面する、デジタルで漫画を届けることの困難。ウェブサービス「はてな」がこんなに「ジャンプ+」に深く関わっていたことは今回初めて知りました。圧倒的な数のアクセスを実現するためには、当然圧倒的な受けとめ力が必要。デジタルサービスも泥臭く地道で、創造的な工夫が必要なことが、本書にはビビッドに描かれています。そしてその「はてな」を漫画のために導いたのは、やはり、編集者の方々です。

「ジャンプ+」、ひいては「ジャンプ」は外から見れば確かに王者ですが、その王者を王者たらしめているのは、作家さんあってこそだとしても、間違いなく編集さんたちの努力もあるはず。戸部田誠さんの丁寧な取材と筆致には、山根一眞さんの『メタルカラーの時代』や、『プロジェクトX』に近い感動があります。ラジオ局のアナウンサーという、コンテンツ業界の端くれに属する者として、コンテンツに対する基本フォームと、応用問題をこれだけ鮮やかに届けてくれる本があるのは、何と幸運なことだろうかと思います。

本書の最後には海外マーケットに対する野望が語られますが、この編集者さんたちの底力をもってしたら実現しないわけがない! と、読み終わって、強く確信しています。

戸部田誠『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』刊行特集一覧

【序章 試し読み】創刊からの10年間でもっとも嬉しかった『SPY×FAMILY』のコミックス初版100万部達成

【戸部田誠さん刊行記念インタビュー前編】 「僕は、挫折を経てなにかを成し遂げた人たちに強く惹かれてしまうんです」

【戸部田誠さん刊行記念インタビュー後編】「週刊少年ジャンプ」創刊時の原点がヒントに。伝統ある集団のクリエイティブのすごみを感じた

【けんすうさんインタビュー】「『少年ジャンプ+』の10年は、集英社が打てる手の中で一番いい手を打った感覚です」

【“よっぴー”吉田尚記アナウンサー書評(5月15日公開)】「コンテンツに対する基本フォームと応用問題を鮮やかに届けてくれる本

好評発売中!

2014年9月22日創刊。昨年、2024年9月で10周年を迎えたマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」。
その10年の間に、『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『ルックバック』『タコピーの原罪』『ダンダダン』など、ヒットマンガや新人作家も続々誕生。多くの読者を獲得し、人気マンガ誌アプリとなった。そんな「少年ジャンプ+」は、どのようにして生まれ、どのようにして進化し、そして今後どこを目指していくのか?

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新刊紹介

吉田尚記

よしだ・ひさのり
1975年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、1999年ニッポン放送入社。
2011年度「第49回ギャラクシー賞」において「DJパーソナリティ賞」を受賞。
2008年から始まった「マンガ大賞」の発起人・実行委員を務めるなど、ラジオにとどまらない活動を行う。
著書に「ツイッターってラジオだ!」「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」などがある。
@yoshidahisanori

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