2022.11.12
【中村憲剛×黒川伊保子対談 後編】もっとも難しい思春期年代の指導にこそ、“思春期脳”の知見を活用すべき
心身ともに激変する思春期は、指導者にとっても一番難しい時期
黒川
私、小学6年生のときに身長が145センチくらいで前から3番目くらいだったんです。でも、中学を卒業するときは162センチだったから3年間で17センチも伸びたんですね。夜中に骨がぐっと伸びる感覚で目が覚めることもありました。ということは脳の神経回路と骨の成長がアンバランスなわけです。昨日までよりも2ミリとか伸びてたりすると、脳の神経信号処理が追いついてないんです。
中村
なるほど、だから思春期の成長期には急に動けなくなることがあるんですね。それまでやれていたことが、急にやれなくなったり。
黒川
女子のフィギュアスケートなんて分かりやすいですよね。15歳ころになって体が大人になっていくと壁がありますよね。これは体と脳のバランスも変わっていくためにジャンプするときの感覚も違ってくるからです。脳を専門とする立場で言うなら、この過渡期に指導者はあまりいじらないほうがいいのでは、と思います。
中村
育成年代の指導者と話をしても、中学生を教えるのが一番難しいとみなさん言います。やはり心身ともに激変する時期ですから。
黒川
激変するから、指導者の方はいい方向に変えてあげたいって思ってしまうんでしょうね。でもそのときはいじらずに見守ってあげて、心身の激変が終わったなと感じたらそこからアドバイスをしていけばいいんじゃないのかな。
中村
黒川さんがおっしゃること、本当に参考になります。もう一つ聞いてもいいですか? 試合はやっぱり勝たなきゃいけないじゃないですか。そこで指導者は、勝つための策は授けるとしても、がんじがらめにするんじゃなくて、子どもたちにある程度任せたうえで「どうだった?」と聞いてあげるとか、センスを伸ばすにはそういったことも必要なんでしょうか?
黒川
「どうだった?」と聞いてあげるのはすごく大事なことですね。本人的に気持ち良かった、あんまり気持ち良くなかったって、どちらかの感覚は残っていますから。「ほかにどんなアイデアがあると思う?」などと広げてあげるともっといいのかもしれませんね。スポーツでもなんでも、指導者と父親って、ちょっと違うんですよ。たとえば、指導者がこうだ!と決めつけても、親はガス抜きさせてあげられるじゃないですか。うちも一緒に仕事をしているからそうだけど、親が指導者であるとガス抜きはなかなか難しいですよね。
中村
はい。多分、中2の息子のガスは抜いてあげられてないと思います(笑)。彼もサッカーをやっていますから、ついプレーに関しても生活に関しても言ってしまうし、ガス抜きのつもりで言った言葉が、むしろガスを入れちゃってるのかもしれません。
黒川
「よくやったな!」と憲剛さんが言っても、お父さんの高いレベルを知っている息子さんからすれば「あなたに言われても……」ってなっちゃうものね。
中村
試合で僕が見ていても「そこに出すんだ!?」とびっくりするようなパスを出す時があるんです。そのパスに対して「ナイスパス!」って息子に言っても、彼は喜んでくれる反面、もっとその先のことを言われるんじゃないかって身構えちゃうんですよね(苦笑)。その案配は本当に難しいです。
黒川
それはもうしょうがないです。でも、しょうがないとして、思春期にある息子さんとの接し方としては、サッカー以外に何か一緒にできることを見つけたほうがいいかもしれませんね。それも、お父さんがヘタなほうがいい。父親と息子って、マウントして、マウントされてという関係になりがちだから、サッカーは横に置いて、「お前、こんなことができるのか。すごいじゃないか!」って心から言ってあげて、息子さんも心からそう思えるものがあるといいんですよ。
中村
ちょっと2人で何ができるか、探してみます。息子が得意なものを、僕もやってみるっていう。
黒川
そういう意味では「抜けたお父さん」にならなきゃいけないですね。隙を見せたほうがいいです。
中村
結構、隙だらけなんですけどね(笑)。ことサッカーになると、真剣にキリっとなってしまいます。
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